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サービスの理解は改善への第一歩② 要求事項をコントロールできるのか

 サービス業におけるサービスは、要求事項と提供事項の共通部分であり、事業者は、提供事項をコントロールして要求事項に寄せていくことが改善の基本、と、①のコラムでご説明しました。


サービス = 要求事項 ⋂ 提供事項

 しかし、提供事項を要求事項に寄せるといっても、そう簡単ではありません。そもそも、要求事項を完全に把握することは困難です。顧客のニーズは様々な要因によって、流動的に変化します。殊に、未来に要求されるものは予測でしか捉えられません。予測が外れれば、提供事項と要求事項のバランスは見事に崩れます。

 刻々と変化する要求事項に、提供事項をリアルタイムに、逐一寄せていくことが求められるのですが、そこには膨大な労力を要しながらも、一定の不確かさが残ります。

改善業務「応用編」

 一旦、整理してみましょう。

  • 要求事項に提供事項を(できる限り)一致させたい

  • 要求事項は流動的

  • 提供事項は自由にコントロールできる

 そうすると、問題の本質は、一方(=要求事項)が流動的なのに対し、一方(=提供事項)しかコントロールできない点であることがわかります。

 ならば、要求事項をコントロールする方法を考えれば良いのです。

 提供事項は自由にコントロールできます。放っておけば変化しません。固定化もできるのです。やれ新商品だ、やれ新メニューだを試行錯誤して、未知の要求事項に提供事項を寄せていくことを考えるよりも、むしろ、提供事項は固定しておいて、要求事項をコントロールする方法を考える方が合理的ではないでしょうか?

要求事項をコントロールすることができるのか?

 これは可能です。実は、既に多くのサービス業で実践されています。わかりやすい例では、「ラーメン屋」ではなく「豚骨ラーメン専門店」、「喫茶店」ではなく「コーヒー専門店」。ラーメン屋さんの要求事項は、醤油ラーメン、味噌ラーメン、あるいは塩ラーメン、時には、チャーハンや餃子も要求されるかもしれません。一方、豚骨ラーメン専門店に対する要求事項は、豚骨ラーメンでしょう。提供事項を絞ることで、要求事項をコントロールしているのです。

 このような専門店化では、顧客層が狭まるといった弊害があります。恐らく、味噌バターラーメンが食べたい顧客は、豚骨ラーメン専門店にはあまり行かないでしょう。しかし、エリア内にラーメンを食べる潜在顧客が50,000名存在したとして、そのうち豚骨ラーメン派は僅か500名だったとしても、その500名に対する優位性は生まれますので、経営は成り立ち易いと考えられます。これが、豚骨ラーメン派が実は10名しかいません、というエリアだとすれば、経営は困難になるでしょう。個別に、慎重なターゲティングに基づいた判断が求められます。

 また専門店化は、同業他社と競合した場合の差別化が難しくなる傾向にある点も、注意が必要です。特に日本人は、真似が大好きですから、二番煎じ、三番煎じがすぐに現れます。しかし、提供事項が絞られているため、次の一手が難しくなるのです。

「期待値」をコントロールして要求事項をコントロールする

 前述のような専門店化では、要求事項をコントロールしやすい反面、提供事項のコントロールが難しくなってしまいます。長期的な視点で見れば、必ずしも得策であるとは言えないでしょう。また、物理的にも心情的にも、提供事項を絞ってしまうことが困難なケースもあるでしょう。

 では、どうすればよいのか?

 「期待値」をコントロールしましょう。期待値をコントロールして、間接的に、要求事項をコントロールするのです。これもわかりやすい例を挙げますと、「ラーメン屋」の「おすすめメニュー こだわり豚骨ラーメン」。数ある提供事項の中で、期待値をコントロールしてオーダーを“偏らせる”、つまり、要求事項が一定コントロールできるのです。

 「なんだ、そんなことか。どこのお店でもやっているじゃないですか。」

 そんな声が聞こえてきそうですが、それは、“マーケティングのためにやっている”のではないでしょうか?

 提供事項に適った期待値のコントロールをしなければ、売上アップに繋がったとしても、業務改善には繋がりません。あくまでも、要求事項と提供事項のバランスをとり、生産性を上げることが目的です。期待値のコントロールによって、特定のサービスに要求事項を偏らせることができます。その仕組みを合理的に活用することが、業務改善における「期待値のコントロール」の本質です。

求められるものを提供するのではなく、求めさせて提供する

 業務改善では、自分たちの業務を改善することだけに着目しがちです。しかし、実は顧客も、その業務の関係者です。改善の対象になります。顧客を改善する、というのは、少し乱暴な表現に思えますが、成功する改善の基本は「関係者すべてが恩恵に与ることができる」ことです。顧客にもメリットが行き渡るよう、適切な策を、適切な方法で取り組めば、決して乱暴なものではありません。

 ところで、「サービス」と聞くと、なぜか得した気分になりませんか?

 恐らく、多くの人が、サービスから「無料」でなにかが提供されることを連想します。この、奉仕的な無料のサービスと、サービス業におけるサービスが混同されがちです。サービス業のサービス=無料であるなら、サービス業が成り立つわけはありません。特に、気配りや心配り、目に見えない役務などは、おおよそ無料だと認識されてるのではないでしょうか。このような価値観が、文化と言われるまでなってしまっているのが、日本の実情です。

 しかし、こうした文化を育んでしまったのも、実は、サービスを提供する側なのかもしれません。サービス業は、人が人を感動させられる、素晴らしい業種です。この先も、人間がすることに意義がある、数少ない業種の一つだと考えられます。求められるものを、求められるがままに提供するのではなく、合理的に、求めさせて提供する、そしてしっかりと報酬を得ることが、サービス業全体の改善に繋がります。

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