銭湯と機関銃
壁に大きく描かれた富士山を背に、湯船から上がる真っ白な湯気を目で追うと、天窓を流れる雲が見える。日本一の富士に目も暮れず、それより高い空を悠々と泳ぐ雲に見惚れる。
築50年を超えた風呂無しフォークソングなヤサに引っ越して3ヶ月ほど経った。もう一つの家(前に住んでたアパート)にシャワーを浴びに行くか、銭湯に通う日々を過ごしている。
銭湯は歩いて5分とかからない場所にあって、夏の今の時期は蝉のトンネルを汗ばみながら向かう。
住宅街の中にひっそり閑と佇んでいて、暖簾がかかってなければ見過ごしてしまうような外観だ。〇〇湯と書かれたその布は、風も吹かない日本の夏をじっと我慢している。
夏の暑さを掻い潜り、年季の入った下駄箱に靴を入れる。いつも53番の下駄箱を使う、理由は俺がゴミだから。うるせえ。
引き戸を勢いよく開けると、ガンガンに効いたクーラーの冷気と番台のおいちゃんの視線がテレビからこちらに向かう。
壁には禁煙って張り紙がしてあるのに、番台のおいちゃんはいつも煙草を吸っている。ソファーにどっかりと沈んで煙草を吸っている。禁煙の張り紙は少しヤニばんでる。
お金を渡し、お釣りを受け取る。服を脱いで風呂に浸かる。
バンドの練習の前に銭湯に行くことが多くて、ギターを担いでよく行く。その時に決まって、「今日も機関銃か」とギターケースを指差し笑いながら話しかけてくれる。「そう、2、3人ね」ってギャグを返し、ギターを担いで「じゃ、また!」と夏を潜る。
清々しい気持ちで、また汗をかくために。日本で一番低くても俺は富士山でいたいから。
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