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「忠告」・・・怪談。ホラー映画の主演女優に話しかけてきたのは。
そのホラー映画に出演が決まった時、ご親切に忠告をしてきた女がいた。
「親切心から言うんだけど。この映画、呪われてるから気を付けてね」
”親切心から”と前置きするところが、アヤシイ。
どうせ、脅かして辞めさせて、アタシの代役をねらっているんだろう。
顔色は悪いが目が大きく小柄な女優。何か切羽詰まっているみたいに見える。
『そんな焦ったような印象だから、仕事が来ないんだよ』
アタシは心の中で呟いた。
どこかの仕事で一緒だったんだろうか、見覚えがあるようだが思い出せない、この業界、出入りが激しいし、どこの現場で又一緒になるか分からない。一応、ありがとう、と感謝の言葉だけを返しておいた。
『気にすることは無い。アタシは選ばれたんだ。堂々と演じきってやる』
そう気持ちを引き締めた。
今回の映画では、初めてヌードも披露する。アタシの女優生命を賭けた一本なんだ。良く知らない他人から何を言われても、いちいち気にしてはいられない。
ところが、それからクランクインまでの間に、三人の人間が「気を付けて」と言って来た。
手相見のバイトで稼いでいるという俳優仲間、
別の仕事で知り合った占い好きのディレクター、
そして最後は変な宗教に感化されている叔母だった。
「あんたの影が妙に薄く見える。光が射してないんだ。
光の当たらないものには気を付けなよ」
と真剣な目つきで話して来たが、アタシは
「大丈夫よ。アタシこの撮影で光の当たる場所に行くの。
スターになるのよ」
と胸を張って見せた。
数週間後、撮影初日を迎えた。
叔母には大口を叩いたが、内心、プレッシャーに負けそうだった。
悲鳴を上げるのも、恐怖の表情も初めてだ。業界一厳しいと言われる監督に
OKと言ってもらえるだろうか。
時空を支配する異次元の「闇」の存在が棲むという高校の廃墟で、
恐怖と戦う青春サバイバルホラー映画。
過疎で廃校になった小学校の校庭に、巨大な廃墟のセットが組まれている。
その前で悲鳴を上げてしゃがみ込むのが、今日最初のカットだ。
宣伝用のポスターにも使うということで、メイクも念入りにされた。
すっかりホラー映画の主人公らしくなって、まるでアタシじゃないみたいだ。
アタシは立ち位置について背後のセットを眺めた。
覆いかぶさるように迫る不気味な廃墟の壁が、夜の闇の中にシルエットを浮かべていた。
「凄い迫力とリアリティ。映画会社も巨額の予算を投じているし、失敗なんか許されないわ・・・」
そう思った途端に、足が震えて来た。プレッシャーに押しつぶされそうになる。
セット全体を写すため、スタッフは全員、アタシから距離を取っている。
走り回っていたスタッフが落ち着くと、監督が頷いて声を上げた。
「ではまずテストから行こう。諸々よろしいな~」
アタシはプレッシャーを跳ねのけるように目を閉じ、段取りをおさらいした。重い足を引きずるように二三歩歩いてから、膝をついてしゃがみ込む。
ゆっくりと顔を上げたら、思いっきり悲鳴だ。
間も無く監督の声が聞こえた。
「よーい。スタート!」
アタシは足を引きずって、しゃがみ込む。
そして恐怖に引きつった顔でゆっくり上を向く。
次は悲鳴だ。
と思った時、耳元で囁く声が聞こえた。
「押しつぶされるのは、プレッシャーだけじゃないわよ」
え?と思った瞬間、周りにいるスタッフたちが走って逃げ出すのが見えた。
監督もカメラマンも、アタシの後ろを指さして叫んでいる。
「何?何が起こってるの?」
振り向いたアタシの上に、巨大な廃墟の壁が倒れ込んできた。
アタシは、重い鉄筋とコンクリートの壁に押しつぶされて即死だった。
「ああ。映画はどうなっただろう。撮影の準備は続いているようだ。
アタシの代役はどんな子がやるんだろうか。誰がやるにしても助けてあげないと・・・」
アタシは、今も時の狭間をさまよいながら主演女優に忠告し続けている。
「親切心から言うんだけど。この映画、呪われてるから気を付けてね」
でも、そいつは全然本気にしない。
どうせ怖がらせて代役でも狙っていると思ったのだろう。
気持ちの入らない「ありがとう」だけが返ってきた。
おわり
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