「これはテレビの故障ではありませんコントロール・・・」・・・かなりヤバい世の中。
「これはあなたのテレビの故障ではありません」は、1964年から始まったTV「アウターリミッツ」のオープニングナレーションの冒頭部分である。
これを知っているのは、相当な高齢者だが、
反面教師的に、このナレーションを思い出した。
ちょっと長いのだが、まずはそれを引用しよう。
「これはあなたのテレビの故障ではありません。こちらで送信をコントロールしているのです。水平線も垂直線もご覧のように自由に調節できますし、映像の歪みも思いのままです。また焦点をぼかしたければこのように、合わせたければいつでも鮮明に映し出せます。あなたはこれから私たちと共に、素晴らしい体験をなさるのです。それは、未知の世界の神秘ともいうべき宇宙の謎を解く驚くべき物語です」
さて、これを読んで頂いた上で、私が最近体験した、恐ろしい社会の片鱗をお話しよう。
事の始まりは、とある自主映画をデジタル化だった。
仮にAさんと呼ぶその人が、部屋の隅から古いVHSのテープを見つけたのは、先月の事だ。
VHSを知らない人の為に説明すると、VHS(ブイ・エイチ・エス、ビデオ・ホーム・システム)は、
日本ビクター(現:JVCケンウッド)が1976年に開発した規格で、
1/2インチ(1.27cm)幅の磁気テープに、映像と音声を録画録音する
カセットタイプの家庭用ビデオ機器で、ソニーなどのベータマックスと熾烈な規格争いを行った。
現物を知らない人には、分かりにくいだろうが、
新書くらいのサイズ(新書が分からんか)のカセットに、磁気テープが入っていて、
それをデッキに差し込んで、TV番組などを録画するシステムである。
最初の「リング」で見ると呪われるツールとして出て来るのがVHSである。
とにかく、Aさんが見つけったテープを見てみると、どうもテープの何か所かが白くカビが生えている。
どうしても見てみたいテープだったので、量販店のサービス窓口に持って行った。
ここは、VHSや8mmフィルムのデジタル化(DVD化)を請け負っている。再生するデッキが壊れて見られなくなっていても、こういう所に持って行けば、パソコンでも見られる形式の動画にしてくれる。
「カビが生えてるみたいなんですけど」
Aさんは恐る恐る伝えると、店員は、
「分かりました。カビ取りもやります」
と笑顔で答えた。
Aさんはホッとして1週間後の仕上がりを待つことにした。
そして、1週間後。
出来上がったDVDを見て、Aさんは愕然とした。
「テレビ、いやパソコンのモニターが故障しているのかな」
VHSからコピーしたと言うその動画は、斜めに歪み、
とてもまともな状態とは思えない。ぐちゃぐちゃである。
「でも、カビが生えてるくらい、古いテープだったしな・・・」
一時はあきらめかけたのだが、
「いや。他に方法がある筈だ」
Aさんは友人に映像に詳しい人を探して貰った。
そして、ある映像系の大学で教授をしている人を見つけ出した。
その人が、再生できるか見てくれると言うので、早速大学まで
VHSを持って行った。
「上手くいくかどうかは、保証しませんけど、一応やってみましょう」
慎重な言葉と共に、教授はVHSのデッキにテープを差し込んだ・・・。
すると、
ゆがみも、ノイズも無い映像が再モニターに現れた!
「やった。ちゃんと見られる」
その場にいた全員が一斉に声を上げた。
「テープには問題無いようですね。これはヘッドとテープが正しい位置で
触れ合っていない、つまり信号をスキャン出来てない状態だったんですね。これは、プロ用機材なら、スキャンヘッドを調整したりして、解決できますし、家庭用デッキでは、自動で調整する機能の付いているものもありますよ」
教授の報告を話すAさんの言葉を聞きながら、
私は、ちょっと不安になってしまった。
最初、VHSをデジタル化する時に、ラボに数千円を支払って、
ぐしゃぐしゃの状態だった。
ということは、ラボの人は、VHSの調整の仕方も知らなかった、というより、VHS自体を知る人がラボにいないということだ。
「再生画面が酷くても、古いテープのせいだと考えて、解決法も探らなったんだろうな」
思えば、デジタル全盛の昨今、動画が乱れたりするのは通信状態に問題があるのがほとんどで、まさかテープと読み取りヘッドのずれだなんてアナログなトラブルの原因は考えもしないだろう。
まさに、今回の問題は、
「あなたのテレビの故障ではありません。
(分かっている人なら )こちらでコントロールできるのです。
水平線も垂直線も自由に調節できますし、映像の歪みも思いのままです。
またいつでも鮮明に映し出せます」
ということなのだ。
そして、
「(分かっている人に頼むのなら )あなたはこれから、
素晴らしい体験をなさるのです。
それは、未知の世界の神秘ともいうべき驚くべき物語です」
というほど、分かっている人には簡単で、
そうでない人には、驚くべき事柄なのだ。
アナログ時代では簡単な事も、
今は失われた技術になってしまっている。
多くの分野で、このような事が起こっているだろう。
アナログな知識も後継していかなければならないのだ
おわり
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