「レジ係の心得」・・・ホラー。よ~くその場面を想像してみて。
スーパーの買い物かごをレジの台に乗せる時、お客さんの袖が捲れ上がって、真新しい火傷の跡と青あざが見えた。
『痛そうだな・・・』
私にも覚えがある。コンロや火箸で焼いた痛みは中々消えないのよね。
お客さんの苦しみは、まさに痛い様に伝わって来るわ。
買い物かごの中には、
丈夫で大型の黒いビニール袋が10パック。
10枚セットのバスタオルを5セット。そしてのこぎり。
そう、分かるわ。こんな時、自宅にあるものは使いたくないものなのよね。
私は商品をスキャンしてから、最後にこう言った。
「匂い消しと染み抜きには、塩素系漂白剤が良いですよ。
匂いは思いのほか、周りの部屋に流れますから」
引きつったような顔で、私を見つめるお客さんに、
私はにっこりと笑いかけ、スーパーの制服の袖をめくって見せた。
いくつもの火傷跡の筋が走っている。
痣は二年ほどですべて消えたが、火傷の跡は今も残っている。
お客さんは、自分の腕を隠すように袖口を押さえた。
傷みを押さえ込んでいるようにも見える。
私はもう一度笑い、明るく言った。
「大丈夫。時間はかかるけど、やってみると意外と簡単ですよ。もし困ったら、又ここに来てください。閉店後か木曜日なら、私手伝えますよ」
そして最後に明るく語り掛けた。
「毎度ありがとうございます。お気をつけて!」
お客さんは深々と頭を下げてレジを通り抜けた。
それにしても多い。今月だけで4人目だ。
季節の変わり目はやっぱり増えるな。
今度の人は警察に見つからなければ良いけど。
私はレジ台の下に置いてある新聞に目をやった。
そこには、夫を殺して死体をバラバラにした女の写真が載っていた。
どことなく、今のお客さんに似ているような気がした。
おわり
#ホラー #短編 #ショート #不思議 #謎 #主婦 #買い物 #スーパー #レジ係 #のこぎり #黒いビニール袋 #塩素系漂白剤 #火傷 #痣