「涙のこうかい」・・・あっという間に読める超ショートショート。
自慢じゃないが、俺はモテる。
バスケットでインターハイに行ったし、勉強も学年で10位以下になったことは無い。
言い寄ってくる女子はひっきりなし、ラブレターを持って放課後待ち伏せする他校の女までいた。
俺は断りきれなくて、短い間だけでも付き合って、すぐ別れるという事を繰り返した。長く付き合うと、順番待ちで渋滞ができてしまうからだ。
決して遊んで捨てるわけではない。
女たちは泣きながら去って行ったが、俺はわざと「女の涙は勲章だ」などと嫌われることを言っていたが、嫌な奴だったと思った方が、女の子の傷は軽くなるだろうと、思っていたからだ。勝手な思い込みだったかもしれないけど。
しかし、俺には、3年間思い続けた女の子がいた。
紗枝だ。
派手な顔つきではなく、授業でも学園祭でも、特に目立たないが、なぜか気になっていた。
学園祭の最後の夜。俺は人目を忍んで、紗枝を体育館の裏に呼び出した。
そして、3年間の思いを込めて、
初めて女性に「好きです」と言った。
紗枝は、少し首をかしげて、
「どうせ体だけが目的なんでしょ」と言って走り去った。
歯を食いしばって、普段の俺を恨んだ。
その夜、一人で布団に入ってから、涙が流れた。
次の日も、その月の日も、涙は止まらなかった。
泣きながら学校に行き、泣きながら授業を受けた。
友達も教授も呆れていたが、放っておいてくれた。
何を食べても、しょっぱすぎるし、香りなんかまったく分からない。
目の前が常に滲んでいて、すぐに転びそうになる。
音だけが頼りだが、ラブソングのワンフレーズ、カップルのイチャイチャ声、ちょっとした愛の言葉が耳に残り、心を責め立て、後悔を深くしていった。
一週間がたった。
外へ出ても辛いだけなので、涙が収まるまでアパートの部屋に引きこもる事にした。
ピンポ~ン、と呼び鈴が鳴り、ドアを開けると、そこに紗枝が立っていた。
「泣き通しだって聞いたから・・・」
こんな奇跡があるのか、と俺は思った。たとえ同級生の道場であったとしても、嬉しかった。
すぐに、目から流れる涙が勢いを増した。ストローで流しているくらいの量だったのが、あっという間に水道の蛇口並みになり、さらに流れた。
バケツをひっくり返したような勢いから、滝のようになるのは早かった。
流れる。流れる。流れる。俺の目の前に急流が出来た。
紗枝は、涙の激流に足を取られ、はるか向こうにまで流されてしまった。
道を走る車も、通行人も、どんどん流されていく。
俺は流れに乗って、世界中を航海した。
人々が世界各国の海面が上昇し、人類に生存可能な土地が約半分になった、というニュースを聞くのは、3か月後の事だった。
おわり
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