「鬼と石段」・・・ある寒い冬の伝説。
「めざせ100怪!ラジオde怪談」は、「清原愛のGoing愛Way!」(SKYWAVE FMにて放送中)の番組内で100の怪談を特集する「怪談朗読特別企画」。
その為に用意した怪談を紹介していきます。
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「鬼と石段」
男鹿三山が雪帽子をかぶると、麓の村は恐怖に覆われる。
冬一番の大雪の夜。
山奥に棲む、五匹の鬼たちが降りてきて
その怪力で村人の家を壊したり、
蓄えのお米を奪ったりの乱暴を働くのだ。
その為、村では毎年、生け贄として娘を一人差し出し、
何とか村を守っていた。
「今年はどの家から差し出すのじゃ」
「お前の家はどうじゃ。嫁の貰い手もおらんじゃろう」
「何を言う。お前の娘こそ、偏屈オヤジの面倒を見るより
生け贄になった方が、ましじゃろ」
冬が近づくと、村の集会所では
決まって醜い擦り付け合いが繰り広げられる。
「今年はあたしが行きます!」
村人たちが争い合うのを見ていられなくなったのか
今年十二になったばかりの早苗が申し出た。
村一番の器量よしと言われた早苗の覚悟を聞いても
村人たちは目を伏せたまま、何も言わなかった。
反対するということは、代わりに自分の娘を
差し出すという事になるからだ。
だがそこに、大声で反対する者が現れた。
いたずら好きで村人から嫌われていた早苗の弟、庄助だった。
「お姉が犠牲になることはねえ。
もう、どこの娘も生け贄にしたくねえだ!」
心の底では皆の気持ちも同じなのだが、
『鬼が相手ではどうしようもない』
という諦めが大人たちの心には沁み込んでいた。
「生け贄を出したくねえって言ってもどうすんだ?
村を荒らされても黙ってるのか?」
「いや。村も荒らさせねえし、生け贄も出さねえ。
オラに考えがあるだ」
「どんな考えがあるか知らねえが、
悪ガキの考える事なんぞ、どうせ上手くいかね」
「そうだ。無駄な事は止めとけ」
普段、悪戯ばかりして遊んでいる庄助の言うことを
村人たちは信じなかった。
ただ一人、早苗だけは、弟の真剣な目の輝きを信じようと思った。
その年の冬。虎落笛が吹く寒い夜。
村の入り口には、家の軒ほどの高さのお供物台が設けられた。
白い布が巻かれたお供物台の上には、
長い髪をまっすぐ下し、真っ白な着物に身を包んだ早苗が一人。
祈るように両手を組み、身じろぎもせず静かに座っている。
真夜中を過ぎる頃、
遠くから地響きのような足音を立て、
5匹の鬼が山から下りてきた。
「どうれ今年は、どんな娘っ子じゃあ」
「めんこえ娘かぁ?」
「めんこえ娘かぁ?」
鬼たちは、台の上の早苗を
燃えるような赤い目で、ギョロギョロと見つめた。
その時、台の足元から庄助が姿を見せ
鬼たちの前に立ちふさがった。
「おい。鬼ども。お前たちはいつも力自慢をするけんど、
本当は大したことは無えんだろう」
「何だと?」
「何をぬかすか、このワラシが!」
「このワラシが!」
自慢の怪力を馬鹿にされた鬼たちは、
燃える瞳で睨みつけきたが、庄助は怯まなかった。
「本当に力が強いと言うなら、一番鳥が鳴くまでの間に
ここから山の上のお堂まで、千段の石段を積み上げてみろ!」
「そんな事は屁でもないわい」
「そうじゃ。屁でもない」
「それが出来たら、お前は何をするのじゃ」
「もし出来たら、これから毎年、
村でとれた作物全部と、村の娘を三人差し出してやる。
でも、出来なかったら、二度とこの村に入って来るな」
「偉そうなワラシが、村の作物を賭けるというのか」
「村の生け贄を三人に増やすというのか」
「面白え」
「面白え」
「わしらの力を見せてやる。わっはっは」
賭け事の好きな鬼たちは、庄助の申し出に応じて、
山の斜面に石を積み上げ始めた。
「うんさ」
「うんさ」
どし~ん。
一段目が積まれると、庄助は、お供物台の下から
黒い布に包まれた大きな箱を引っ張り出し、
その布の上に並べられた、太いろうそくから
一本取って火を着けて鬼たちに見せた。
「何だそれは」
「ろうそくを千本用意したんだ。数え間違いが無いように、
一段積むごとに一本、ろうそくに火を付けていく。
誤魔化しは出来ねえぞ!」
鬼たちは鼻息を荒くした。
「何をぬかすか。
夜明けまでに千段きっちりと積み上げて見せるわ」
そう言うと、大きな体をさらに早く動かし、
石段を積んでいくのであった。
「あのバガケ庄助が。鬼たちを煽ってどうすんだ」
家の中に隠れて恐る恐る覗いていた村人たちが
庄助をなじったが、庄助は冷静にろうそくに火を着けて
黒布の箱の前に並べていった。
「庄助。何をするの?」
早苗が訪ねても庄助は
ただ優しく笑うだけで答えなかった。
鬼たちの勢いはものすごく
あれよあれよと言う間に石段を積み上げていく。
「うんさ」
どし~ん。
「ほいさ」
ずし~ん。
百、二百、四百。
石段の数に合わせて、庄助もろうそくを並べていく。
どし~ん。
「こりゃさ」
ずし~ん。
「もう一本」
六百、八百、九百。
鬼たちはどんどん山の斜面を登り、頂上近くまで迫っていた。
庄助は、もう鬼の方を見ずに、
一生懸命、火の点いたろうそくを次々と並べていった。
九百九十六、九百九十七。
「庄助。もうすぐ千段積まれてしまうぞぉ」
耐えきれなくなった村人がもの陰から飛び出して声をかけた時、
ようやく庄助の手が止まった。
「よし。これくらいで良いだろう」
そう言うと庄助は、箱の黒い布を一気に取り払った。
箱は大きな鳥かごで、その中にはニワトリが三羽入っていた。
ニワトリは、九百九十九本のろうそくが生み出す明るい光を
朝日だと勘違いし、一斉に鳴き声を上げた。
「コッコッ、コケコッコー」
その途端、山の上から鬼たちの悔しがる声が聞こえた。
「うぉ~。一番鳥じゃあ」
「もう朝になったのか」
「ええい。あと一段だったのに」
「悔しい、悔しい、口惜しい」
庄助は、山の上に向かって叫んだ。
「お~い、鬼ども。
夜明けまでに千段積めなかったんだから
もう二度と村にくるんじゃねえぞ~」
「悔しい。悔しい。仕方がない。賭けに負けたら、諦めよう」
鬼たちの声は、山の尾根から尾根に伝わり、
やがて小さくなってしまった。
「ばんざーい。庄助ばんざーい」
「庄助。ありがとう」
村人達は大喜びで、
いつまでも庄助を褒め称えたと伝えられている。
おわり
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