「終電車の二人」… あっという間に読める超ショート怪談。声に出して、よ~く想像してみて・・・
「終電車の二人」 作・夢乃玉堂
「だからもう出ないとヤバいって言ったじゃない」
走り去る最終電車の赤いランプを目で追いながら
容子は俺に文句を言った。
「あの時はお前が、もう一杯だけって言うから・・・」
「又、あたしのせいにして!
あんたがその一杯をチビチビチビチビ
貧乏臭く呑んでたからでしょう!
友達以上恋人未満と言えば聞こえはいいが
その頃の俺と容子は、些細な事でもイラついて口喧嘩をし、
歴史サークルの核爆弾と呼ばれていた。
『うるさいな! そんなに俺が嫌なら・・・』
と言いかけたところで、列車がホームに入ってきた。
「ほら見ろ。やっぱり次が終電だよ」
思いっきりドヤ顔になっていたのだろう
終電に間に合ったのに、容子は目も合わせずに黙りこくっていた。
こいつのこういう素直じゃないところが嫌だ。
目の前に滑り込んできたその列車には、
通勤時間のように乗客がたくさん乗っていた。
しかしその乗客たちは全員、真っ黒な帽子をかぶり
俯いていて、にやにやと笑っていた。
真っ赤な唇からは黄色く染まった歯がこぼれ、
どろどろとしたよだれを垂らしている。
「な、なあ・・・。き、今日はやっぱりホテルにしないか」
「そ、そうね。そうしましょう・・・」
天邪鬼な二人だったが、その時は素直に意見がまとまり、俺たちはその夜、駅前のシティホテルに泊まった。
結果的にこれが妻との最初の夜になった。
今では俺は、どんなに誘われても
絶対に終電より早く帰る良い夫になっている。
おわり
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