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「シミュラクラの向こう側」・・・超ショート怪談。心霊写真に写ったものは?


『シミュラクラの向こう側』・・・超ショート怪談。心霊写真に写ったものは?


「どうしよう。アタシ呪われちゃうかも」

放課後、教室で女生徒たちが教室で大騒ぎしていた。

机に突っ伏した井上奈美が肩を震わせ、
目が真っ赤に腫れあがるほど涙を流している。

気の毒なくらい怯えているのは、はた目にも分かった。

「奈美、しっかりしてよ。ちゃんとお祓いすれば大丈夫だって」

「そうだよ。心霊写真だからって、写ってる人が全員
呪われるわけじゃないんだから、気にしちゃダメよ」

「もう駄目よ。こんな写真撮れちゃったんだから。
きっと憑いて来てるわ。肝試しなんかするんじゃなかった。うわ~ん」

奈美たち女子数人で、昨夜心霊スポットで有名な森の中で
肝試しをし、恐ろしい心霊写真が撮れたらしい。

慰めの言葉も全く耳に入らず、余りに奈美が騒ぐので、
クラスの興味は、その精神的落ち込みから離れ
写真に何が写っているのか、に変わっていった。

その時だった。女友達が必死に奈美を慰めているところに、
桐野明が割って入ったのは。

「見せてみ」

桐野は、超現実派だ。
友人の恐怖体験をことごとく、それは気のせいだ、光の反射だ、と看破して、
オカルト好きのひんしゅくを買っていたが、
その性格が今は役に立つかもしれない。

日頃は疎ましく思っていた女子たちの、奇妙な期待を背に受け、
桐野は机に置かれた「心霊写真」を奪うように摘まみ上げた。

一瞥するなり、桐野は

「はん。これ? もしかして、この背景に写っている森の中に
人の顔があるって言うの?」

桐野が冷めた口調で言った。

「うん。そう。人でしょ」

「はああ。人間の脳はね、点が三つあるとね。人の顔だと認識するように
出来てるんだよ。シミュラクラ現象って言うんだ」

「そうなの?」

「そうさ。これくらいの心霊写真なら、すぐに作れるぜ。
奈美。黒板の前に立ってみろよ」

奈美は女友達に両脇を支えられるように
黒板の前に立った。

桐野は、奈美の肩越しに黒板にチョークで大き目の点を三つ、
逆三角形になるように書いた。

「ほら、そっちから見てると分かるだろう。
こいつの肩に、何となく顔があるように見える」

「ホントだ。顔みたいに見える」

「なあ~んだ」

女生徒たちは一斉に安堵の声を上げた。

「何、何? どうなってんの」

一人黒板の前の奈美だけが、不安なままだった。

「ああ。奈美にも分かるようにしてやるよ」

桐野が黒板から離れ、
スマホをポケットから出して、黒板の前の奈美を撮影した。

「ほら、何も・・・」

そこまで言いかけて、桐野はスマホを見つめたまま動かなくなった。

「どうしたの? 早く見せてよ」

奈美が催促しても桐野はスマホを見せようとしない。

「いや、ダメだ。こんなはずない。削除だ。削除しないと・・・」

慌ててスマホを操作する桐野の手が震えていた。

「見せてよ。桐野君」

奈美が黒板の前から離れて、桐野に近づいてくる。

桐野は、真っ青な顔をして、怯えた声を上げ始めた。

「うあああああ~」

「見せてよ・・・見せて・・・見せろー」

奈美が地の底から響くような太い声を上げた。

桐野と女生徒たち、教室に残っていた全員が一斉に駆け出し、
教室を飛び出して行った。

夕日の差し込む教室に、
奈美の不気味な笑い声だけが響いていた。

                おわり




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夢乃玉堂
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