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「添い遂げる条件」・・・葬儀の後、母親が始めたこととは。あっという間に読める超ショート怪談。
『添い遂げる条件』
父を荼毘にふして、自宅に帰ってくる頃には、
昨夜の通夜と昼間の葬式の疲れが出て、へとへとになっていた。
妻の道子に夕食の買い出しを頼んで、俺は一服する事にした。
「もう若くないな」
と言い訳しながら、黒いネクタイを外し、喪服をハンガーにかけた。
「母さんも着物脱いで楽になれば」
仏間で座り込んでいる母に声を掛けた。
母の背中越しに、テーブルの上に並べられた父の写真が見える。
『さすがに辛いよな。オヤジの思い出に浸っているんだろうな』
母の背後から、そっと覗き込んだ時、俺は思わず息を呑んだ。
その気配に気づいたのか、母が手を止めずに話しかけてきた。
「いいかい。なんであんな男と・・・って思う事は多いんだけど
全てを許そうって思う瞬間があるから、何とか添い遂げることが出来るんだよ。
それが無くなったら、もう終わり。お互いを必要としなくなったってことだから、消えて貰わないとね。
あんたも、道子さんにそんな風に思われないようにしなさいよ。
後が大変だから」
母は、父の写っている写真を一枚一枚切り刻んでいた。
遺影は既にバラバラだ。
定年退職記念の温泉旅行も細かく切り刻んでゴミ箱の中。
今は50代に差し掛かった所だ。
あのアルバムのどのページの写真まで、母は切り刻むのだろうか。
せめて40代。俺がこの家を出たあたりで止めて欲しいと思った。
もし、新婚旅行の写真まで切り刻んだら。
母の人生は、余りにも悲しすぎる。
俺は、祈るような気持ちで、母の手元を見つめた。
「ただいま~」
道子が帰って来た気配がした。
俺は急いで玄関まで迎えに行った。
おわり
*加筆再録
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