「ゆーちん。」・・・焼き芋屋とあの子。
「ほら。あそこ!」
改札を出た途端、ゆーちんは声を上げた。
そこには、焼き芋の屋台を乗せた軽トラが停まっていた。
僕は、彼女の食欲に少し呆れて答えた。
「ゆーちん。もうお腹空いたの? 今晩ご飯食べたばっかりなのに」
「フザケンナヨ。あれだよお。よく見て」
キレ気味にゆーちんは、後ろから僕の頭を両手で挟んで、
少し上を向かせた。彼女は僕より20センチも背が高いのだ。
「ほら。あそこ。軽トラの上!」
僕は目を凝らした。
軽トラの屋根の上には、立派な翼を持った鷹が繋がれていた。
「へえ。すごい、焼き鷹もあるんだ。美味しいのかな?」
軽い気持ちでボケてみたが、ゆーちんは、
「よ~し。買ってやるよ。ゼッタイ、喰ッテミロヨ!」
と、カツカツと靴音を響かせ、白いバッグを振りまわしながら、
焼き芋屋の軽トラに近づいて行った。
え~。本気か?
勢いに圧倒されていた僕が、ようやく軽トラに近づくと
ゆーちんは、ちょうどお金を払ったところだった。
「まさか、買っちゃったの?」
「ふぁい」
振り向いたゆーちんは、焼き芋を一本口にくわえていた。
そして、バッグを右手に抱え、左手でもう一本の焼き芋を僕に差し出した。
「ふぁやく、うふぇとって」
言われるまま僕はそれを受け取った。
焼き芋は、火傷しそうなくらい熱かった。
「あちち。え! こんな熱いお芋を咥えて口は大丈夫?」
「へへへ~。熱いでしょ。アタシの方は、少し前に焼き上がったお芋。
あなたのは、焼き立てアツアツよ」
ゆーちんはしてやったり、とご満悦の笑みを浮かべて、咥えていた焼き芋を手に持ち直して、ふ~ふ~し始めた。
「まだ、ちょっと熱いね。でも美味しそう」
そうだろう。焼けてから時間が経っているとはいえ、それなりに温かいはずだよ。それを口に咥えるんだから、まったく何を考えているんだか。
ゆーちんの行動はいつも支離滅裂で、
何を考え、何を狙っているのかも分からない。
でも僕は、そんな彼女から目を離せないでいる。
焼き芋屋の屋根にいる鷹が、僕を見ながら、
『お前も囚われてしまったな』
と話しかけてきたような気がした。
おわり
写真の鷹?トンビ?を連れた焼き芋屋さんは、実在します。
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