「願いを簡単に叶えてくれるものは」・・・意外に身近にあるのかも。
日々の生活に疲れてくると、つい楽な方法に手を出したくなりますよね。
そんな心を目指して。悪魔は誘惑してくるのかもしれません。
願いを叶える、もっとも早い方法をお教えします。
*加筆修正
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「猿の手・願いを叶えるものは」 by夢乃玉堂
「ねえ母さん。猿の手って知ってる?」
中学1年のタケシが奇妙な事を聞いて来た。
「知ってるわよ。それを使うと、願いを3回かなえてくれるって奴でしょ。
ウサギの手とか、どくろの彫刻なんてのもあるわよ」
「流石かあさん。良く知ってんね」
「アタシだって、子供の頃は不思議大好き少女だったんだから。馬鹿にしないでくれる。でもね、そういうアイテムというか、魔法のツールはね、
うまくいくように見えて、結局不幸な結果になるものが多いのよ」
「例えば?」
「そうね。例えばこんな話よ・・・・。
昔、あるところに老夫婦と一人息子が住んでいた。
老夫婦が骨董屋から願いを三つ叶えると言う「猿の手」を譲り受けた。
半信半疑ながら老夫婦は、一つ目の願いとして、
「1億円欲しい」と猿の手に向かって言った。
その翌日。
一人息子が交通事故で亡くなってしまう。
息子は自分で生命保険に入っていて、保険金が支払われた。
その金額は1億円だった。
お金は入ったけれど、息子を失って落胆した老夫婦は、
二つ目の願いを猿の手に願う。
「息子を生き返らせてくれ」
すると、急に嵐が吹いて家が揺れ始める。
遠くから何かが近づいて来る気配がする。
だがそれは、物の怪のような唸り声を上げ、
地響きを立てながら、森の木々をなぎ倒して近寄って来る。
そしてついに、老夫婦の家のドアが強い力でドンドンドンと叩かれた。
余りの恐怖に、老夫婦は三つ目の願いを使ってしまう。
「元に戻してくれ」
途端に嵐は収まり、ドアを叩く音も消える。
・・・こんな話よ。
「え~それじゃあ、救いがないじゃないか」
「その他にも、たくさん女の子にもてたいって願うと、
同時に百人に好かれて女の子同士の嫉妬で殺されたり。
願いが叶ったら悪魔がやってきて魂を持って行かれたり」
「それは嫌だな・・・あ。今俺、それを避ける方法を思いついた!」
「何、又ろくでもない事思いついたんでしょ」
「これは凄いアイデアだよ。いい。三つしかないから、悲劇になるんだよ。
だったら、最初に、『叶える願いを1000に増やしてくれ』って
言えばいいんだよ」
「へえ~なるほど、その手があるか、頭良いわね」
「ね。財産だって中途半端にあると相続で揉めるって言うじゃない。
欲張る以上にあったら、誰も揉めないよ。
三つの願いも同じ。これで絶対幸せになれるね」
タケシは、どや顔で笑った。
「でもね、タケシ。呪いの品や悪魔は、そんなに甘くないと思う。
例えば、『三つの願いを叶えると魂が取られる』っていうのは、
『三つごとに魂ひとつ』という意味でしょ。
だとしたら、1000回に増やしたら。
魂を330回以上持って行かれる、という事よね」
「それ、どういう事?」
「つまり、今世だけでなく、来世も、その又来世も、さらにその先も。
生まれ変わるたびに、魂が悪魔に奪われてしまう。
生まれる前から、魂が悪魔のものになっている人間なんて、
想像してごらん・・・」
その時、つけっぱなしになっていたテレビでニュースが始まった。
戦争、殺人、詐欺、恐ろしい出来事が続いた。
「願いを増やして、悪魔に魂を持ってかれた奴が、いるのかも
しれないな・・・」
不安げに呟くタケシに私は言った。
「ねえタケシ。私の願いも聞いてくれる?一つで良いから」
「うん。何?」
「私の願いはね、『タケシの願いは何にも頼らず、自分の手で叶える事』。
夢なんて自分で叶えなさい!」
タケシは困った顔をしてため息をつくと、
鞄から宿題のドリルを取り出した。
そして、ノートを開く時、ため息をついて自分の手を見つめた。
でも、私の目には、タケシの日焼けした手は、
どんな願いもかなえる猿の手のように見えた。
おわり
あなたの手には無限の可能性がある。
そう伝えたかった物語。
怪談、と称していますし、「猿の手」という不気味なアイテムも出てきますが、実は日常のほっこり話。
私の作品には、こういったものも多い事に、今回のラジオ企画で気づかされました。
ありがとうございます。
*加筆修正しました。
「猿の手は、毎週木曜日16:00~放送のSKYWAVE FM 「清原愛のGoing愛Way!」の「めざせ100怪!ラジオde怪談」のシリーズとして朗読されました。
詳細は、清原愛さんのフェイスブックなどでご確認ください。
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