「鏡と金縛り」・・・怪談orホラー。親子が体験した恐怖の出来事とは。あなたは鏡に何を祈りますか?
痛いのや辛いのが嫌な人は、この告白を聞かないでください。
よく言う『金縛り』という現象を体験した事がある人も、中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、俺がこのところ、よく体験する金縛り現象の告白です。
ジングルベルが流れる夜の街を抜けて、俺は自宅のマンションに急ぎました。
頬を刺すような冷たい風も、家族のことを思うと辛くあえりませんでした。思いの外早く片付いた仕事に感謝しました。せっかくの雪の降る夜。いつもよりずいぶん早く、帰宅できます。
「ただいま~」
マンションの玄関を開けて声を掛けたのですが、いつもなら駆け足で飛び出して来る、娘のチユミと妻の真由子が出てきません。
帰宅予定よりずいぶん早く帰って来たから、リビングでのんびりしてるのかな、そんな風に俺は思いました。
「よ~し。ちょっと脅かしてやるか」
俺は、音を立てないように、そっと玄関扉を閉めると、
抜き足差し足でリビングに向かいました。
リビングの扉は開いていましたが、人のいる気配は無ありません。
耳を澄ますと、寝室の方から、囁くような声が聞こえてきます。
『そうか、寝室で絵本でも読んでいるんだな』
俺はさらに慎重に歩を進め、寝室のドアを少しだけ開いて中を覗いてみました。案の定、二人は寝室の三面鏡前で鏡に向かって仲良く並んでいたのです。
「鏡よ鏡よ。鏡さん・・・」
チユミが鏡に話しかけています。
その横で、真由子も一緒になって鏡に話しかけます。
「鏡よ鏡よ。鏡さん・・・」
真由子は、見た目も童顔だけど、性格も少し子供じみたところがあります。そこが可愛いくて、一緒になったんですけどね。
でも結婚してからは、ちょっと度が過ぎるんじゃないかな、って気持ちになる事があります。
何というか、ワガママと言うか、自分の判断を押し付けてくると言うか・・・結婚前はそんな女じゃないと思ったのに、ちょっと気に食わないことがあると、『何するの!』なんて大声で反論するし、ひどいときは、爪を立ててて引っ掻こうとするんですよ。
でも最近ではそういう事も無くなって、元の大人しい女の子に戻ってくれました。
分かってくれて俺は嬉しい。
母娘のミラートークは続いていました。
鏡に何を話すんでしょう。プレゼントのおねだりかな。だったら、しっかり聞いておかないと、俺は耳を澄ましました。
「チユミちゃん。生まれ変わったら、何になりたい?」
真由子が聞きます。
「なりたいものを、鏡にお願いするのよ」
なんだ、プレゼントじゃないのか、生まれ変わりゴッコだな。
チユミが大きく頷いて答えます。
「うん。鏡よ鏡よ。鏡さん。生まれ変わったら、
今度は違うお家に生まれますように」
俺は驚きました。
何を言ってるんだ。チユミ。この家が嫌いなのか?
俺が一生懸命働いてローンを払っているこの家が・・・。
真由子、何してる。チユミを叱らないのか、叱りなさい。
ショックで動けないまま見ていると、今度はチユミが聞き返します。
「ママは? ママは何に生まれ変わりたいの?」
「そうね。ママは人間はもういいかな。
又パパと結婚することになったら辛いからね。
生まれ変わったら、二度とパパと出会いませんように、かな」
「チユミちゃんとおんなじだ~」
ママが娘を抱きしめた。
俺の頭はショックで真っ白になりました。
いつも大人しく俺の言う事を素直に聞いている二人が
影でこんな事を言っているなんて。
なぜだ。なぜだ。なぜだ。
いや。これは彼女たちがおかしくなったんじゃない。
きっと二人は何かに憑りつかれて、こんな事を言っているんだ。
呪いをかけられたのかもしれない。放っておけない。
このピンチを救えるのは、一家の主である俺しかない。
真由子が何かの薬瓶を持っています。
その中の薬を全部手に乗せて、チユミに飲ませるつもりのようです。
ダメだ! やめるんだ!
俺は、リビングに転がっていた金属バッを掴むと、寝室のドアを
力いっぱい開きました。
「きゃあ! あなた!」
痣だらけで腫れ上がった二人の顔が恐怖に震えています。
「まだ足りないのか!」
真由子がチユミを庇うように抱きしめました。
その体に何度も何度も祈りを込めた金属バットを振り下ろすと、
古い痣の上に新しい痣がいくつも浮かんできます。
いくつもいくつも・・・。
「5783番! 静かにせんか! 独房の中で暴れるんじゃない。
又、拘束具を着けるぞ! 大人しくしていろ!」
いつもの声が聞こえてきました。
この声が聞こえると、真由子もチユミも消えてしまうのです。
そして、しばらくすると、俺は金縛りにあってしまいます。
どうしても体を動かすことが出来なくなる。
もがいても声ひとつあげられない。
周りに見えるのは、コンクリートの壁だけ。
こんな経験、あなたにもありますか?
おわり
*ああ。嫌だな~。なんて救いのない話を書いてしまったんだろう。
これは、あくまでもフィクションです。
お祈りします。世の中の親子がみんな平和で幸福でありますように・・・。
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