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「七不思議」は観光名所?
昔から「世界の七不思議」をはじめ、「七不思議」と呼ばれているものがたくさんあります。日本でも「本所七不思議」や「吉原七不思議」は有名ですよね。
もともと七不思議とは、西洋の著名な観光地をまとめて紹介した文献から来ているらしいです。
だから、七不思議は観光資源、名所案内だったのです。
そう思うとちょっと興ざめですが、「本所七不思議」は確かに妖怪譚なので、がっかりするのは早いですね。
と言うわけで、今回は「七不思議」にまつわるお話です。
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「本所七不思議は何罪?」by夢乃玉堂
以前アップした「最も罪深い妖怪」の物語には前日譚がある。
それは、俺がまだ、学生だった頃、有紀子と付き合う前だ。
彼女については、大学始まって以来の才女が
同期にいるという噂に聞く程度だった。
当時、司法試験の合格率を誇るある大学の法学部に通っていた俺は、
学食で、同期の有村隼人、前田裕、由利薫と話している時に、こんな話を聞いた。
それは、都市伝説のようなもので
「司法試験の中には、奇妙な問題が紛れ込んでいる。
その問題は、『本所七不思議は何罪?』というものだ」
というものだ。
本所七不思議は江戸時代に成立したと言う怪談の言い伝えで
置行堀(おいてけぼり)や足洗邸(あしあらいやしき)、
片葉の葦(かたはのあし)などが有名だ。
これらの七不思議が現在ではどんな罪になるか、を問われるらしい。
一見ふざけているのかという問題だが、
もしこの問題に正解できなければ、
どんなに他の問題を正解しても不合格になるという。
「そんなのウソウソ。司法試験に落ち続けた性格の悪い先輩が
たちの悪い都市伝説を流したんだよ。
大体、来週司法試験受けるのに、今頃そんな話、今頃誰から聞いたんだよ?」
すぐに否定に掛かる有村に俺は答えた。
「三回生の堀口さんが言ってた」
「出たよ。あの人嘘ばっかり言ってるから、陰で『ホラ口』って呼ばれてるの知ってる?
あの人の言う事は8割嘘だから。安心しな。
それに、法学部に限らず、色々な学部で、そういう噂はあるんだよ。
裏口入学した学生の生徒手帳には手書きで名前が書いてあるとか・・・」
「え。俺の手書きだ」
「当たり前だろう。うちの大学は学生課で手帳を買って、自分で名前を書き込んで、
写真を貼ってから、証明のハンコを押してもらうんだから、全員手書きなんだよ」
「あそうか。良かった」
「ほらね、お前みたいな奴がいるから、変な噂は無くならないんだよ。
他にも、試験の解答用紙に名前の代わりに「100点」って書くと留年を免れるとか。
「それ良いな、今度やってみよう」
「やめとけ! 名前が書いてなかったら、0点だぞ」
「そうか、危なかった」
「ねえ他には?」
「もう少し罪深いのは、大学で一番かわいい子がこっそりAVに出ているとかいう奴だな」
「え~。薫、AVに出てるの?」
「なんでアタシがAVに出るのよ」
「そうだよ。出てるのは大学で一番かわいい子だぜ」
「あ~。それはそれでムカつく」
「ほらね。薫でも動揺するだろう。司法試験にを受験するライバルに話して、
混乱させるために作った噂話が都市伝説になって今も伝わってるだけなんだよ」
俺は3人の会話を聞きながら、少し離れた場所に座っている有紀子を見つめていた。
『大学始まって以来という秀才にも、この噂話は通じるのだろうか』
そんな事を考えていたのだ。きっと心のどこかで、有紀子に嫉妬していたのだろう。
一二回生で司法試験を受けようとするのは、主に試験の雰囲気に慣れるためのものだったが、
有紀子は合格間違いなしと言われていた。
学食の会話が終わった後で、
俺は、偶然を装って、有紀子に近づき、
「司法試験に出る七不思議の問題」に注意しろと伝えた。
有紀子は
「そう。ありがとう。あなたも注意してね」
と、素っ気なく礼を言って去って行った。
その反応が薄かったこともあって、しばらくはその事を忘れていた。
しかし、司法試験の前日になり、有紀子の「あなたも注意してね」という言葉を思い出し
七不思議が気になってしまった。
ホラ口先輩の嘘だと分かっていても気になる。
一時になると、明日に備えて早く寝なければいけないのに。
どうせ眠れないなら、と考えてみることにした。
『もし現在に本所七不思議があったなら、
各々どのような罪問われるか? 罪名を答えなさい』
って、こんな感じかな。
それぞれ答えなさいだから、
設問1 置行堀(おいてけぼり)。
釣った魚を持って帰るなって言うんだから、脅迫罪かな。
でももし釣り禁止の池だったら、逆に窃盗罪になる可能性がある。
設問2 送り提灯(おくりちょうちん)。
夜どこまでも付いてくる提灯か、これは簡単だ。ストーカー規制法違反。
設問3 送り拍子木(おくりひょうしぎ)
ずっとついてくる拍子木。これも同じだ。ストーカー規制法だけど、拍子木だけだと
実害はないし、自分の後を付けて来ているか、他の証拠が無ければ無実の可能性もある。
設問4 足洗邸(あしあらいやしき)。
夜中に天井を突き破って巨大な足が降りてくる、か・・・。
明らかに器物破損だな。住居不法侵入の罪にも問えるかもしれない。
設問5 片葉の葦(かたはのあし)。
葦の葉っぱの形で誰かが損したりすることは無いだろうから、告訴は不受理だな。
いあ待てよ。これが貴重な植物の種で、研究室から盗まれたものだったりしたら、
窃盗罪だな。
設問6 落葉なき椎(おちばなきしい)か。
椎の木に落ち葉が無いという事は、その椎はニセモノ。
何者かがいつの間にか木をニセモノにすり替えたという事か。
それなら、窃盗罪か公共物破損の罪かな。
いや、昨今の傾向から考えると、フェイク、つまり偽装による詐欺罪という可能性もある。
設問7 「燈無蕎麦(あかりなしそば)」または、「消えずの行灯」
蕎麦屋なのに明かりが点いていない。もしくは誰も居ないのに、明かりだけが点いている。
これは犯罪でも何でもないだろう。店が営業しているかどうかの問題じゃないのか。
でも、あえて犯罪に結びつけるなら、
営業しているのに営業していないところから、詐欺罪か?
いや、営業しますと宣言して土地を借りるなどの便宜を払ってもらったなら
公正証書原本不実記録・同供用かな」
結局、俺は七不思議を考えていて徹夜してしまった。
試験会場に俺は赤い目をこすりながら入った。
当然、不合格。学食に行って友人たちから結果を聞かれると、
『今回は、雰囲気だけ見に行ったんだよ』と自分を慰めた。
しかし、有紀子は合格していた。
俺の悪戯など、こともなげにかわして、大学始まって以来の秀才は、
見事に合格していたのだ。
大学の廊下でですれ違った時、有紀子は俺に言った。
「あなた、意外に素直で気にしやすいのね。判事より弁護士が向いてるわよ」
それからずっと俺は有紀子に密かな憧れを持ち続け、
その姿を見つめ続ける事になった。
あの冬の夜、俺の元から去って行くまで。
おわり
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