「怪談会の伝統」は守られるべきか？

さて、怪談特集のラジオが終わったところで、
怪談をまとめて話す怪談会についてのお話です。

ただの良くある怪談が・・・

「怪談会の伝統」　　作・夢乃玉堂

俺の所属する大学生の怪談サークルは、
地域貢献のボランティアとして毎年、夏休みになると、
地元の小学生を集めてキャンプを行なっている。
例年ニ三十人が参加してくれる人気企画だ。
みんなのお目当ては、もちろん大学生のお兄さんたちが話す怪談会だ。

体育館に車座になって、部員たちが順に怖い話をしていく。
中にはプロ並みに上手い語り手がいて、
子供たちは、悲鳴を上げながら楽しんでいた。

俺は自慢では無いが、話すのが苦手だ。
ちゃんと怖がってもらえるだろうか、と不安になる中、
ついに順番が回って来た。

俺は、数少ないレパートリーの中から鉄板ネタの怪談を話し始めた。
よくある怪談だったけど、幸いなことに先輩たちはまだ、
このパターンの話をしていなかった。

「これは、ある小学校のトイレに伝わる話なんだ。
君たちはどうだろうか、学校のトイレで『大』の方、つまり個室に
入ったことがある子はいるかな？」

「入らな～い。臭いって言われるもん」

子供の一人が声を上げた。

「そうだね。本当は匂いなんか移らないのにそんな風に言われてしまう。
それが怖くて、みんな『大』の方には行きたがらないよね。
でも、お兄さんたちの時代。
君たちと同じくらいの小学生、仮にサブロー君としようか、
その日、サブロー君は前の日に食べ過ぎたせいで、
お腹が張って痛くなってきちゃったんだ。
それで仕方なく、休憩中にトイレの個室に駆け込んだんだ。
でも、お腹が張っているのに、なぜか『大』が出てこない。
踏ん張っているうちに、休憩時間が終わってしまって、
外で遊んでいた友達の声も聞こえなくなってしまったんだ。

サブロー君はどうしようと思ったけど、このまま教室に戻っても
又お腹が痛くなったら嫌だなと思って、
もうしばらく踏ん張ってみる事にしたんだ。
すると、しばらくして、どこからか声が聞こえてきた。

『・・・くれ・・・くれ』

サブロー君、あれ、まだだれか残ってたのかな、と思って耳を澄ました。
すると、その声が段々良く聞こえてきた。

『・・・をくれ・・・みをくれ・・・かみをくれ』

サブロー君は思った。
『はは～ん。隣に入ってる奴、トイレットペーパーが無くなって
出られなくなってるんだな』

そこでサブロー君は天井の隙間から隣の個室に向かって
『こっちにはまだ沢山あるから、紙、投げてやろうか』
って声を掛けたんだ。

そしたら、その声に返事が返って来た。

『ちがう～。ちがう～』

何が違うんだろう。サブロー君は考えた。
今度はすぐ耳元で声がした！」

子供たちの緊張は最高に高まっている。
俺は、今だ！というタイミングで、目の前に座っている男の子の髪を
掴んでやろうと、手を伸ばした。

「その紙じゃない。この髪だ～」

ところが、掴もうと伸ばした俺の手は、手ごたえも無く、
その男の子の髪も頭も通り抜けてしまった。

半透明の男の子の顔が、一瞬ニヤリと笑ったと思うと、
すうっと掻き消すように消えた。

「うぎゃ～」

俺は、子供たちの何倍もの大きさで悲鳴を上げた。

翌日、先輩がニヤニヤ笑いながら話してくれた。

「毎年ここで怪談会をやると、必ずあやかしの子供が紛れ込んでいるんだ。
だからみんな、あのタイプの怪談は避けるんだよ」

俺は、「それを早く言ってくださいよ」と本気で怒った。

本物の幽霊が出る怪談サークルの伝統なんてありえないよ。
この先輩たちも冷静にいられるなんて信じられない。

だが同時に、俺はある事を心に決めた。

来年も絶対ここで怪談会をしよう。
勿論、このサークルの伝統について後輩には黙ったままで。

　　　　　　　　おわり
＊一部加筆

・・・・・・・・・・・・

昔、よくやったりやられたりした怪談の手法ですね。
やられた子が泡吹いて倒れたなんて噂もあるとかないとか。

まあ。いずれにしてもやり過ぎは良くないです。お気を付けください。

＊番組で紹介した怪談を一部含む短編集をAmazonで発売中です。

怪談以外もありますので、ご興味のある方は是非。

オリジナルの朗読に使える作品集です。
下記よりご確認ください。

Amazon.co.jp: 十六夜に銀時計が笑う: 夢乃玉堂短編集　１ eBook : 夢乃玉堂: 本

#めざせ１００怪 ！ラジオde怪談 #怪談 #清原愛のGoing愛Way ！ #SKYWAVEFM #放送 #ラジオ #朗読 #不思議 #謎 #怪談会 #卒倒 #恐怖