「24分のX」・・・8 「雪の降る日は」連続超ショートストーリー
○「24分のX」(8)
昼休み。
最近ユキからランチの誘いが無い。
一人で食べる場所を探して、社内を歩いている時、
塚田課長と同僚の今野課長が話しているのに気が付いた。
黙って通り過ぎればいいのに、美晴は柱の陰に隠れた。
「奥さんが最近精神不安定なんだ。急に泣き出したり、会話もしてくれなかったり」
「塚田。それはやっぱりユキさんだからじゃないか」
「どういう意味だ今野?」
「ユキだけに、冷たくて雨交じりなのは、仕方ない事さ」
「真面目に答えろよ」
「すまんすまん」
美晴は『親友のユキの不安を冗談交じりに言うなんて』と腹を立てた。
その不安の原因が自分なのに。
「でもさ。冷たくても雨交じりでも、雪の降る日は雪を愛せばいいんだ」
と今野さんは真面目な声で続けた。
ダサいけど、人によっては、こんな言葉で心を動かされることもある。
少し前の私のように、と美晴は思った。
目の前で泣かれたら、突き放すことなんて出来ない。
愛があろうとなかろうと。
今野さんの質問に、課長は自然な笑顔で「そうだな」と答えた。
それは、美晴にとって予想通りの答えだったが、
恐ろしい呪いの言葉にも聞こえた。
その夜、美晴は一人でサイコホラーのサスペンスの映画を見た。
映画の中で、ラッセル車が雪の積もった道路を走り、
道に積もる雪を脇に飛ばしていく。
その雪の中に死体が埋まっていて、雪は一瞬で真っ赤に染まる。
見ていた美晴は、自分の内から爽快な気持ちが湧き出てくるのを感じた。
「私って最低だわ」
美晴は、自分を恥ずかしく、恐ろしくつまらない女のように思った。
そのまま一人で泣き続け、気が付くと映画は終わっていた。
「良いわね。何が起こったって映画はエンドマークが出れば、後が続かないんだから」
呟いた言葉が美晴をさらに自己嫌悪に落とし込んだ。
自分を不幸な主人公に例えていることが、嫌で嫌で仕方なかった。
このまま明日が来なければ良いと美晴は思った。
つづく
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