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「橋のいけにえ」・・・ヨーロッパのある国に伝わる橋の伝説
「橋のいけにえ」 作 夢乃玉堂
嵐の為に落ちた橋を再建するのは、とてつもない難工事だった。
しかし、その橋が無いと、村に入るには高い山を越えなければならず、
孤立状態になってしまう。
案の定、工事に入ると、次々に事故が起こり、
けが人が続出した。
「このままでは、工事が続けられん」
村の若い衆は、村長に相談した。
村長は、難しいが、と前起きをして言った。
「悪魔と契約をするのじゃ。この橋を無事に完成させてくれたら、
最初に渡った者の魂をお前にやる、とな」
「そんな契約して。誰が最初に渡るんだ。いけ好かない隣の国の国王か? いくら何でも、こんなところまで来ないだろう」
「いいや。心配するな。
最初に渡らせるのは、猫じゃ。
完成したら、まず最初に、猫を渡らせるのだ」
「なるほど、それなら良いや」
村長と村民たちは、祈祷をして、悪魔と契約を結んだ。
そると、次の日から嘘のように工事は順調に進み、
ひと月後には、橋は完成した。
突貫だったが、これでこの村の孤立は解消する。
「よし。猫を出せ、最初渡らせよう」
村長の声を聴いて若衆の一人が、猫の入った駕籠を取り出し、
橋の入口で、駕籠を開いて、猫を走らせた。
猫が橋の中程に差し掛かった時、
一人の男の子が走り出てきた。
「猫ちゃん可愛い」
男の子は猫を追って駆けていく。
このままでは、猫と一緒に橋を渡ってしまうかもしれない。
それは拙い、悪魔が猫の魂を選べばいいが、
男の子の魂を選んだら大変だ。
村の大人たちは、大急ぎで男の子の元に走って行った。
猫は大勢の人間が駆け寄ってくるのに驚き、
橋の欄干を伝って、元に戻って行った。
男の子もそれを追って、欄干の上を歩いた。
大人たちは、男の子が落ちないように、少し距離をとって
様子を見た。
男の子と猫は、大人たちの方を振り返ることもなく、
欄干から橋を戻っていった。
猫と男の子が戻って、大人たちがホッとした瞬間。
橋が乗った大勢の重さに耐えかねて、
音を立てて、崩れていった。
谷底に落ちた人々の魂を拾い集めながら、
悪魔は呟いた。
「橋は完成させた。ずっと使える保証はないがな」
おわり
この物語を読んで、友人が言った。
「悪魔って、橋の建設業者だったの?」
*冒頭の写真はイメージです。本編のお話とは関係ありません。
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