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「浅黄ちゃんの日記」・・・おばあちゃんのお見舞いに行くと。

子供の優しい心が、いつかとんでもない事を招く時があります。
それでも、優しい気持ちを持ち続けたいですね。


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「浅黄(あさぎ)ちゃんの日記」 by夢乃玉堂


〇浅黄ちゃんの日記  風の冷たい日。

ママはどうして、浅黄の言う事をちゃんと聞かないのかしら。
海からお空に、奇麗な光が伸びてるのを教えようとしても、
「危ないから、車の窓から顔を出さないでね」って言って見てくれない。

でも、おばあちゃんは分かってくれる。
高台にあるお家の縁側に座って、いつも海を眺めてるおばあちゃんは、
すぐにお熱を出してお布団に入っちゃうの。
声もちっちゃくって、お嬢様って感じ。

だけど、浅黄が何かしてママに叱られてると、

「元気があって良いじゃないの」

って言ってくれる。

そしたら、あのうるさいママが黙っちゃうの。まるで魔法みたい。

浅黄は、そんな優しいおばあちゃんがだ~い好き!

〇ママのつぶやき。

最初に聞いた時は、本当に心臓が止まりそうだった。
きっと、浅黄が急に飛び出したに違いない。
あの子、ほんとに落ち着かないんだから。

おばあちゃんが咄嗟に手を引いたから浅黄は助かったけど、
代わりにおばあちゃんが、はねられてしまった。

警察の人は、浅黄に、「車のナンバーは?」とか、「形は?」とか
聞いてたけど、
浅黄は、「色が黒くて、とっても大きかった」
って言うだけで、全然覚えてない。

「おばあちゃんのためにも、何でも良いから思い出して」
なんて問い詰めても、まだ8つの娘には無理な話だよ。
そんな無駄な事してないで、さっさとはねた車を探して欲しい。

〇浅黄ちゃんの日記 暗い雨の日。

おばあちゃん。ごめんなさい。浅黄のせいだ。

おばあちゃんは、たくさん管が繋がって苦しそう。
ゼッタイアンセーで、ベッドから動けないんだって。

お医者さまが、話しかければ、目を覚ますかもしれないから、
早く目を覚ますように、たくさんお話してあげてって言った。

浅黄は、運動会の駆けっこで一番になった事を一生懸命話したの。

そしたら、おじいちゃんが、おばあちゃんも駆けっこが早かったよって言った。いつも縁側で座ってばかりのおばあちゃんが、駆けっこが早いなんて、ほんとかな?

〇おじいちゃんのお話。

子供の頃のおばあちゃんはすごく活発で、いつも走り回って、落ち着かない子だった。
駆けっこも水泳も、男の子に負けんかった。

それが・・・ちょうど今の浅黄くらいの頃にな、おばあちゃんは神隠しにあった。イサキが浜で、突然いなくなってしまったんだ。

おばあちゃんのお父さんやお母さん、
おじいちゃんのお父さんやお母さんも一緒になって
三日三晩必死に探しても見つからんかった。

それが、四日目の朝。おばあちゃんは
何事も無かったように、ふらっと帰って来たんだ。

「大きな魚がいた」とか、「半分あげてきた」とか、
訳の分からんことを言っておったが、怪我などは全くしていなかった。

まあ、それで懲りたのか、それ以来おばあちゃんは、
随分大人しゅうなったんだ。
とにかく、おばあちゃんは奇跡の人だ。今度もきっと大丈夫に違いないよ。

〇浅黄ちゃんの日記 すっきりしない曇りの日。

今日は学校のはずだったのに、急におばあちゃんのお見舞いに行くことになった。
でも、せっかく来たのにママは電話を掛けたり、先生のお話を聞いたり忙しそうだ。
おじいちゃんは、ずっとおばあちゃんの手を握りしめてる。

おばあちゃんの胸には、又新しい管が繋がってる。
今度のは、ボヤっと光ってて、病室の窓から外に向かって伸びてる。
あれは何の管なんだろう。

おばあちゃんの枕元のテレビが、ニュースから、怪獣映画になった。
浅黄はこっちの方が好き。

隣のベッドのおばさんが慌てて起き上がろうとして転んでた。
大人なのに怪獣映画で慌てるなんて、変なの。
浅黄だって、あの中に人が入っているのは知ってるのに。

小学校の校舎くらいある大きな怪獣が
浜辺からのっしのっし体を揺らして上がって来た。

魚みたいな顔してるのに腕と足がある変な怪獣。
胸の辺りには、大きな糸巻き車みたいなのが光っている。
なんだかカッコ悪い。宇宙人の方が良かったな。

〇ママのつぶやき。

怪獣がこの世に存在するなんて、
ニュースの映像を見ても、まだ信じられない。

病院の前では、逃げようとしてガードレールにぶつかった車が火を噴いて、
道が通れなくなってしまった。
怒鳴り合いや喧嘩もそこかしこで起こっている。
街は大混乱だ。
浅黄とおばあちゃんたちを連れて、あんな中を逃げるのはかえって危険だ。
怪獣は海から川を遡ってきているらしいけど、
ここを素通りして、山の方まで行くかもしれないし、
警察が何とかしてくれるかもしれない。

状況がはっきりするまで病室に隠れていよう。その方が安全な気がする

〇浅黄ちゃんの日記 曇りの日つづき。

おばあちゃんの病室のテレビでは、怪獣映画がまだ続いている。
ちょー大作だ。

でも、怪獣、怪獣、怪獣って、
なんでそんなに大騒ぎするんだろう。
すぐにミラクルマンが飛んできて、やっつけてくれるのに。

怪獣は、川から上がって、ビルを壊しながら街の中を走ってる。
すごいスピードだ。子供の頃のおばあちゃんでも勝てないだろうな。

あ。テレビに病院が映った。今、撮影してるんだ。
浅黄も映るかもしれない!
明日学校に行ったら、女優さん、なんて呼ばれちゃうかも。
チェックのリボン付けてくれば良かったな。あっちの方が絶対可愛いのに。

ママがびっくりして大きな声を上げた。
窓から怪獣の顔がこっちを覗いている。
大きいなぁ。テレビで見るよりずっと大きいや。

おじいちゃんもママも、浅黄を抱きしめてきた。
ちょっと、苦しいってば。

あれ?
おばあちゃんの胸から出てた管が、怪獣の胸の糸巻き車に繋がってる。

糸巻き車が光って回り出した。
おばあちゃんの体に光の塊が入っていく。
眩しい光は病室中に広がって、とっても奇麗だ。

その時ね。浅黄の頭の中に映画が見えてきたの。
最近の映画ってすごいね。ビックリしちゃう。
これが、何とかマックスって言うのかな。

〇家族の証言をまとめた報告レポート。

病室で、怪獣と接近遭遇した家族は、
当該時間において、全員が同じ映像を見たと証言している。

それによると、怪獣が窓から覗くと同時に、怪獣の放つ光が病室に満ちていき、それと共に映像が頭に浮かんできたという。

映像の内容は、
入院していた水野環(たまき)さん68歳が、
子供の頃に体験した事件のようである。
環さんの経験を追体験するように、映像はとても鮮明だったらしい。

映像は、およそ60年前のイサナが浜から始まる。
海水浴をしていた環さんは潮に流されて、不思議な洞窟にたどり着いた。
そこで、今回と同じ怪獣と遭遇。
怪獣は、かなり弱っている様子だったため、環さんは恐怖を感じず、
可哀そうだと同情した。

そして、

「アタシの元気をあげられたら良いのにね」

と、怪獣に話しかけると、怪獣の胸から光る糸が出て
環さんに繋がり、胸から光の塊を吸い取って行った。

この「吸い取った」という表現は、レポート作成者の意見によるものである。

証言者たちは皆、

「怪獣を助けるために、環さんが自分の元気を怪獣に預けた」

と、語っているが、その根拠を尋ねても誰も説明ができない。
従って、不確かな推測であると思われる。

やがて環さんは眠くなってゆき、
次に目を覚ましたのは、元の砂浜だったという。

それから60年が経ち、環さんが危篤になったので、
今度は怪獣がそれを返しに上陸し、返し終わったので又海に戻って行った・・・

というのが、家族の証言であるが、信ぴょう性はない。

専門医の診断では、
怪獣遭遇のパニックにより全員が錯乱状態になり、
集団催眠のような状態に陥ったのであろうという事である。

*レポート作成者注釈
異例ではあるが、全ての調査を終えた感想をレポートの最後に書き記す。

「こんな与太話、記録として残す価値はない」

*作成者の希望通り、レポートは削除された。

〇浅黄ちゃんの日記 ポカポカした暖かい日。

あの日から、おばあちゃんはとても元気になった。
元気になりすぎて、前と少し変わったみたいだ。

「浅黄ちゃん。そんなだらしない格好しないで。
外に行く時は、きっちりしなさい!」

「浅黄ちゃん。お菓子食べるのは、宿題やってからになさい」

おばあちゃんは、浅黄がママに叱られていても、
全然助けてくれなくなった。
それどころか、お小言ばっかり言って来る。

でも、浅黄が家で退屈そうにしていると、
すぐに後ろから抱きしめてくれる。

「浅黄ちゃん。おばあちゃんと駆けっこしようか」

だから浅黄は、叱られてもお説教されても、とっても嬉しいの。

         

                 おわり


あ子供の頃の大切なものはありますか?
忘れていても、それはいつか返って来るかもしれません。
こちらも怪談、と称していますが、「怪獣もの」です。

「浅黄ちゃんの日記は、毎週木曜日16:00~放送のSKYWAVE FM 「清原愛のGoing愛Way!」の「めざせ100怪!ラジオde怪談」のシリーズとして朗読されました。

詳細は、清原愛さんのフェイスブックなどでご確認ください。

https://www.facebook.com/kiyoharaai

お時間のある方は是非。

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