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「挫折5秒前」・・・予定していた撮影が飛んだ。その理由とは?
『挫折5秒前』
友人の佐藤が今年初めから準備していた映画の製作が延期になった。
「一応延期だ」と佐藤は言ってきたが、別のスタッフは
「もうこのまま中止でしょう」と暗い声で語った。
佐藤が学生時代から温めてきた企画で、
シナリオは、ちょっと恥ずかしいくらいの青春ムービーだった。
それを個性的な絵作りで一部映画通に注目されている新人監督が撮るはずだった。
しかし、大手の映画会社に持ち込んだ時
「有名俳優も有名監督もいない企画じゃねぇ・・・」
と門前払いを食らった。
それでも作品を信じる佐藤たちは、
「大手に出来ないものを作ってやろう」
と手弁当で作り上げる自主製作映画として企画を進めた。
地道な努力が続いた。
出資してくれそうな企業を回り、
製作費が貯まるまで、佐藤たちは昼夜仕事をして金を貯めた。
「仕事の繋がりで、若いアイドル系女優にも出てもらえるようになった。
7月末か8月上旬にいよいよロケだ」
と喜んで連絡してきたのが今年の5月だった。
その喜びもつかの間だった。
7月12日。緊急事態宣言。
延期の連絡が来たのは、7月末だった。
決断が遅かったのではない、ギリギリまで撮影できる可能性に賭けていたのだろう。
「一応、延期だ。なに。すぐに再開できるさ」
しかし、佐藤の声は重かった。
電話を切った後、企画段階から話を聞いていたベテラン記者の木元に話をした。
「延期の理由は宣言だけじゃないかもしれない」
推測だけど、と前置きして木元は話してくれた。
「プロダクションとしては、若い女優の卵を、経験値を上げるための修行として映画に出演させるつもりだったのだろう。業界ではよくある事さ。
それが爆発的感染者増と宣言だ。小さな現場に出すのがに不安になったのかもしれない」
「このご時世じゃああり得るかもな」
「それと、もう一つ。ロケ地の確保が難しくなったのかもしれん」
「お前のところに、7月中頃、ちょうど宣言が始まった頃に、
ロケ出来る一戸建ての家を知らないか、と川崎から連絡があっただろ」
「ああ。シナリオに合うような場所が見つからなくって、
結局ハウススタジオを借りた方が良いんじゃないかと連絡した」
「ロケの直前まで場所が決まっていないなんて、
時間の余裕が無いテレビドラマでもあるまいし、自主製作映画なら、もっと早く、監督のイメージから場所を決めている筈じゃないか」
「言われてみればそうだな。
あの時は、場所を探す事に気を取られて、そこまで考えなかった」
「映画のロケは数十人が一カ所に集まって行動する。
全てをスタジオで撮影するような予算は無いから、
当然、他人様の家や公共の場所を借りなければならない。
見知らぬ人が長時間、わさわさと出入りするのは、誰でも不安になるだろう。だからテレビや映画の場合は、徹底した殺菌と飛沫対策をしているんだ。佐藤の映画でそれが出来るか不安になったんじゃないかな」
結局、本当の理由は聞かされていない俺たちには何も分からない。
もし木元が言うような理由であっても仕方のない事だ。
プロダクションにもロケ地の家屋にも、非はない。
「まあ、事態が収束し、折り合いをつけたら、普通に再開するだろうがな」
木元は希望を込めて話を締めた。
昨年、3月以降、リモートでドラマを作るという試みが一時多く見られた。
作り手の努力は見えるが、やはり演出やカメラの制限などに苦しんでいるのがよく分かった。
若手には、制限が多いなら多いことを逆手に取って
新しいものを作りだしてほしいと思う。
こういう時に一番良くないのが
「仕事も夢も、政治も金も、どうせ・・・」
という愚痴である。諦めてしまうのが、一番良くない。
若者には、まだまだ表に出ていない才能があるはずだ。
それをこんなことで諦めて良いのか?
世の中を斜に構えて達観するのは、年寄に任せておけばいい。
歳をとれば嫌でもネガティブな事が纏わりついて来る。
その前に、動けるだけ動き、頭を使えるだけ使うべきだ。
俺は祈るような気持で盃を空けた。
だが、映画製作の再開にはまだまだ高いハードルがあったのだ。
つづく
この作品は実際の映画製作に伴って、進行します。次回は制作に進展があった時。ちなみに、登場する人物名は仮名で、特定を避けるためシチュエーションなども多少変えています。
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