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「三太郎カラスともみの木」(後編)・・・果たして三太郎はもみの木を届けられるのか。
聖夜にちなんだお話をお届けします。
これは、ラヂオつくばで先日放送された物語です。
皆様も、良きクリスマスをお過ごしくださいませ。
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北の果てにある雪深い森の中を
ハイイロガラスの三太郎(さんたろう)が、体の半分ほどもある、
もみの木の枝を咥えて飛んでいました。
昨日、森にやってきた寂しそうな男の子に、
クリスマスツリーの代わりに、せめてこの枝を届けてほしいと、
大きなもみの木に、頼まれたのでした。
暗い森を抜ける時、フクロウに襲われ、
枝を落としてしまった三太郎ですが、
湖のほとりにある土手に落ちている枝を見つけて、拾いに降りたのでした。
「三太郎カラスともみの木」(後編) 作 夢乃玉堂
その時、三太郎は気づいていなかったのです。
足元から続く土手の端が、むっくりと起き上がってきたことを。
起き上がった地面の先からは、二つに割れた舌が現れ、
その上には細い三日月のような目がにぶく光っています。
土手に見えたのは、湖のぬし、大(おお)ウワバミだったのです。
ウワバミは、自分の胴体に刺さったもみの木を
グリグリと動かされ、とても怒っていました。
月明かりが急に陰ったのを変だなと思った三太郎が
振り返ると・・・
ウワバミが大きな口を開けて自分を丸呑みするところでした。
三太郎は、思いっきり足を踏ん張ると、
間一髪、もみの木を引っこ抜いて飛び上がりました。
ウワバミはもう一度三太郎を食べようと背伸びをしましたが、
大きな口は、わずかに届かず、
ぶら下がった枝を2本引きちぎっただけで
湖に戻っていったのでした。
『危なかった。まだ枝は残ってる、これだけでも届けないと・・・』
決意を新たにする三太郎をまたも試練が襲います。
厚い雲が月を隠し、あっという間に
大粒の雨が降ってきたのです。
雲のあちこちで、稲光が輝き、そのいくつかは
音を立てて地上に落ちていきました。
三太郎の翼は濡れ、咥えたもみの木も
どんどん重くなっていきます。
それでも何とか飛んでいると、
バリバリっと雲の中から飛んできた雷が
咥えていたもみの木に当たったではありませんか。
全身に電気が走り、三太郎は気を失ってしまいました。
しばらくして三太郎が目を覚ますと、
そこは、港町の大きな家の赤い屋根の上でした。
周りを見回すと、すぐ近くにもみの木が転がっています。
ほとんど焦げ落ちて、長い枝が1本だけ残っていました。
三太郎は迷いました。
もうクリスマスツリーには見えないこの枝を
持っていって何になるんだろう・・・
それでも昨日の男の子の寂しそうな顔と
もみの木の優しく思いやる声を思い出すと
そのままには出来ませんでした。
「これだけでも持って行ってあげよう。
森の大きなもみの木を思い出したら、
少しはクリスマスの気分を味わえるかもしれない」
三太郎は、少し焦げた最後の枝を咥え、
屋根から飛び立とうとしましたが、
雷に打たれた時に羽根を痛めたのでしょうか
なかなかうまく飛べません。
屋根の端まで横滑りして、転げ落ちてしまいました。
幸いなことに、屋根のすぐ下には大きな明り取りの窓があり、
三太郎はその窓枠に、必死にしがみついて転落を免れました。
体勢を立て直し、ほっと一息ついた三太郎の耳に、
楽しそうなジングルベルの歌が聞こえてきました。
歌声に導かれるように家の中を覗いてみると、
壁には赤と緑のリボンが掛けられ、
テーブルの上にはイチゴがいっぱい乗ったケーキと
プレゼントの山。
温かく燃える暖炉の横には、
天井に届きそうなほど立派なクリスマスツリーが
立っていました。
そして、ツリーの前で、
船員姿のお父さんと一緒に歌を歌っているのは、
昨日森に来ていた、あの男の子だったのです。
三太郎はしばらく、もみの木の枝を咥えたまま、
嬉しそうな男の子の姿を見つめていました。
やがて三太郎は、窓枠に枝を差し込むと、
空高く飛び去っていったのでした。
空が白み始めた頃、三太郎はもみの木のもとに
戻ってきました。
「三太郎。よく帰ってきてくれました。
男の子はさぞかし喜んだことだろうね」
三太郎は、もみの木を見ることができません。
「う、うん。クリスマスツリーが来たって喜んでたよ」
「そうかい。それは良かった。ありがとうね」
三太郎は黙って目を伏せました。
涙を堪えるのに必死です。
涙を見せると、そのわけを話さなければならないから。
もみの木は、そんな三太郎に声をかけました。
「三太郎。ここまで登っておいで」
「うん・・・」
羽根の痛さを堪えながら
三太郎は枝を一段ずつ飛んで上がります。
一番上の枝にたどり着いた時、
丁度、東の山脈の頂きから朝日が顔を出したのです。
暖かな光に包まれて、
三太郎は全てが報われた気持ちになりました。
そしてその時、三太郎は気づいたのです。
このもみの木のてっぺんからは、
フクロウに襲われた暗い森も、
ウワバミが住む湖も、よおく見えるのです。
「三太郎。素晴らしいクリスマスプレゼントだったよ。
私はお前が頑張ってくれたことを生涯忘れないよ」
もみの木に積もった雪も、
三太郎の潤んだ瞳も、いつまでもキラキラと輝いていたのでした。
おわり
さて、皆さま。
良きクリスマスをお過ごしください。
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