「彼氏失格」・・・超ショートショート。おませな妹が夫婦の危機を導く。

『彼氏失格』

「お姉ちゃん。トオル君。あたしの彼氏よ」

歳の離れた妹の美央は、
こう言って幼稚園の男の子を紹介した。

「あれ？彼氏はユウ君かヒロシ君じゃなかったの？」

「違うわよ。ユウ君は、ジャングルジムから落ちて
泣いてて可哀そうだから彼氏にしたの。
ヒロシ君ははね、忘れ物をして先生に怒られて可哀そうだったから
友達から、彼氏に格上げしてあげたの。ヒロシ君は・・・」

美央は自慢げに語り続けた。
つまるところ、美央の彼氏は、トオル君で７人目といういうことらしい。

彼氏にする理由が皆、『可哀そう』から始まっているのだから、
ある意味で博愛と言えるのだろう。

だが、気に入らない男には辛辣である。

「シンイチ君は、将来性が無いから彼氏としては失格ね」

こう言って幼稚園児の妹は、
８番目の“彼氏”に認定した私の夫を初対面で振った。

シンイチは・・・つまり私の夫は、思いのほか動揺したようだ。
ポイントを取り戻そうと、不味い言い訳を口にした。

「俺も苦労しているんだよ。美央ちゃんのお姉ちゃんために、
優しくて物わかりの良い旦那さんを、毎日頑張っているんだから」

ホホウ？　苦労？　頑張る。ねえ。

晩酌のビールが経った今、キャンセルになったことを
シンイチはまだ知らない。

　　　　　　　　　　　　　　　おわり
＊一部加筆再録

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