「危険すぎる心霊スポット」・・・怪談。怪奇番組の撮影で起こった事とは。
「危険すぎる心霊スポット」として有名な、廃線跡の某トンネルを撮影することになった。
この場所は、今までにTV撮影の企画に三回上っていたが、
なぜか毎回ボツになっている曰く付きのトンネルだ。
取材するレポーターは、ベテランのAさんを選んだ。
このAさん、恐怖に怯える表情に定評があるが、
実際は肝の座った人で、どんなに恐ろしげな場所でも全く動揺せず、
撮影が終わると、心霊スポットに向かって
「大したことなかったな。バイバイちゃん」と気楽な挨拶をするという、
怖がりのスタッフには、ありがたいタレントであった。
私たちは、東京から数時間かけて移動し、日中周辺を撮影してから
日が暮れるのを待って、問題のトンネルに入っていった。
「じゃあ。入りますね。お願いします・・・
ううう。怖いですね。ここが、何人もの行方不明者がいるという噂のトンネルなんですよ~。見てください。もうすでに鳥肌が立っています・・・」
Aさんは、評判通りの怖がり様で、湿気のこもったトンネルを歩いて行く。
Aさんが怖がるのはカメラの前だけなので、
スタッフも余計な緊張感を持たずに済み、怖い絵作りに専念していた。
おかげで撮影は順調に進み、トンネルの中ほどに達した。
「こちらは数年前に廃線になっているんですが、
ああ! レールだ! 埋もれかけたレール! やだな~怖いな~。
ここに・・・いち、に、二本だけ、レールが撤去されずに残ってるんですね。なぜなんでしょう。これを撤去しようとすると、なぜか怪我人や行方不明者が出て、中止になるそうなんですよ~」
Aさんがしゃがみ込んで残されたレールを指さすと同時に、
カメラに付けていた照明が消えた。
次いで私の持っていた懐中電灯の明かりも消え、
トンネルの中は真っ暗になった。
「どうしました。私、このままここに居て大丈夫ですか?」
Aさんの冷静な声がトンネルに響いた。その冷静さがスタッフを安心させ、パニックを防いでくれる。
「なるほど頼れるタレントだな」
と私は妙に納得した。
「大丈夫です。そのまま居てください」
女性スタッフがAさんに声を掛けた。カメラマンが、闇の中で機材の回復を試みたが何も見えない状態ではどうしようもない。
一旦引き上げようかと思った時、
ギャンギャンギャンギャン。
何かが軋むような音が聞こえてきた。
音のする方を見ると、トンネルの入り口から、明かりが一つこちらに向かって来る。外で待機していたスタッフが、照明が消えたのを知って、予備の機材を持ってきてくれているのだろう。助かった、これで撮影を続けられる。
「大丈夫です。そのまま居てください」
再び女性スタッフの声が聞こえた。
「ほ~い。動きません~」
Aさんが陽気に答えた。明かりが近づいてくる。
「でも彼女よく通る声だね。
外に居るはずなのにここまで聞こえるよ」
言われて気が付いた。確かに女性スタッフは、怖いから嫌だと言ってトンネルの外で待っていたはずだ。
ギャンギャンギャンギャン。
又あの軋む音が、トンネルの中に反響した。
反響? そうだ、遠くの音はトンネルの壁で反響して聞こえる。
女性スタッフの声は全く反響していなかった。
まるで、すぐ近くに居るように、奇麗に聞こえたのだ。
ギャンギャンギャンギャン。
軋む音がさらに近くなってきた。
俺はもう一つ奇妙な事に気が付いた。
近づいてくる照明の位置がおかしい。
手元に持っているはずなのに、随分高い位置にあり、地面よりも石造りの天井の方を明るく照らしている。それに、手持ちの揺れがない。
俺は右手で照明の眩しい中心部を隠し、その下に目を凝らした。
文字が見える・・・『D51-●●』
ありえないものが見えた。
ギャンギャンギャンギャン。
「機関車が来る! みんな、脇に避けろ!」
軋む音にかき消されそうになる中、俺は必死に叫んだ。
明りがわずかに早く届いて、スタッフが左右の壁に散るのが見えた。
ただ、Aさんだけが、トンネルのど真ん中に呆然と立ち尽くしていた。
「Aさん!」
Aさんは動けない。
その足に地面から伸びた二本のレールが、しっかりと絡みついているのだ。
ギャンギャンギャンギャン。
目の前を機関車に惹かれた列車がものすごい勢いで通り過ぎ、体が突風に巻き込まれそうになった。
次の瞬間、カメラの照明と俺の懐中電灯が復活した。
トンネルの中は静寂に包まれ、機関車も列車もどこにも見えなかった。
俺はすぐにAさんのいたあたりを照らしてみたが、そこにAさんの姿はなく、
地面に埋もれそうな二本のレールが並んでいるだけだった。
そのままAさんは行方不明になった。
警察に連絡をし事情聴取を受ける事になり、結局撮影は中止になった。
翌日、撮影素材をチェックしていたカメラマンが俺を呼び出した。
「見てください。これ、トンネルの中の最後の映像です」
ただ真っ暗な闇が映っている中にAさんの陽気な声だけが入っていた。
『ほ~い。動きません~』
『でも彼女よく通る声だね。
外に居るはずなのにここまで聞こえるよ』
映像からは、女性スタッフの声は聞こえない。
やがて、俺の悲鳴のような叫びが聞こえた。
『機関車が来る! みんな、脇に避けろ!』
『Aさん!』
突然映像が明るくなった。照明が復活し、構えなおしたカメラが、Aさんの居たあたりを映したのだ。だが、やはり映像には地面に埋もれかけたレールだけ。他には、誰も映っていない。
「やっぱり居ないか。Aさん、どこへ行ったんだろうな」
「そこです」
カメラマンは画面を指さした。
俺はもう一度画面を見た。
「このコマだけなんですけど、よく見てください。少し拡大しますよ」
カメラマンが機械を操作し、モニター画面の一部が大きくなった。
照明に照らされている二本のレールの先、遠くの闇の中に、
ほんのわずか、薄っすらと客車の最後尾が映っていた。
「こ、これ・・・」
俺は息をのんだ。
微かに見える客車の窓から、和服の女がこちらを見ていた。
消えそうな女の顔には目も鼻も無く、赤い唇だけを釣り上げて笑っている。
女は腕を隣の窓まで伸ばしていた。
その腕の先には、凄まじい恐怖の形相を浮かべた、Aさんの首があった。
結局、このトンネルの心霊企画はボツになった。
おわり
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