「忙しいハネムーン」…　あっという間に読める超ショート怪談。でも、よ～くその向こうに隠れているものを想像すると・・・

「忙しいハネムーン」 　　　　作　夢乃玉堂

パンク、ガス欠、エンスト。
成田に向かっていた車が次々故障し、
ついに予定の飛行機に間に合わなかった。

「新婚旅行なのに、どうしてくれるのよ。
こんなボロ車で空港に行こうなんて言うから」

「空港の駐車場に預けておくのが一番安上がりだって
言ったのは君だろう」

自分たちが乗るはずの飛行機を見上げて
拓也と愛海は結婚して最初の喧嘩を始めた。

トップシーズンのヨーロッパ旅行。
どの航空会社にもキャンセルが出ず、
旅行会社の計らいで、飛行機以外のホテルや観光地ツアーの予約が
キャンセルできたものの
楽しみにしていた新婚旅行は、後日改めて行くことになった。

「会社の後輩や友達から餞別まで貰ってるのよ。
今さら、飛行機に乗り遅れて中止したなんて
恥ずかしくて言えるわけないじゃない！」

仕事ではトラブルを笑い話にして
営業の成績を上げてきた拓也であったが
今回ばかりは妻の叱責をかわしきれなかった。

結局二人は、新婚旅行に行くはずだった有給休暇の間、
新居に引きこもって過ごすことにした。

「結婚後数時間でこんなことになるなんて、運のない人だわ。
やっぱり結婚する相手を間違えたかしら」

後悔と不安の闇が、愛海の胸中に広がった。

しかし、引きこもり生活は、すぐに中止しなければならなかった。

二人が乗るはずだった飛行機が、地中海上空で消息を絶ち、
乗客名簿に残っていた拓也と愛海の名前が、
誤ってテレビのニュースで流れたのだ。

それを見た親戚や会社の関係者からひっきりなしに連絡が入り、
二人とも有給休暇の間中その応対に追われ、
奇跡のような幸運を感じながら、忙しい数日間を過ごした。

　　　　　　　　　　　　　　　　おわり

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