「愛を誓う言葉」があなたを呪う。
普段隠れているものが、何かをきっかけにして、
表に現れる、という事はよくありますよね。
今回は、そんな隠れた恐怖のお話です。*放送後一部加筆
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「愛を誓う言葉」
ミスキャンパスの誉れ高い、理美が行方不明になった。
身代金の要求が無いのと、部屋をシェアしていた亜紀の証言により、
理美をつけ狙っていたストーカーのような男が捜査線上に上ったが、
行方は全く掴めなかった。
「無事に帰ってきて・・・」
亜紀の心配をよそに、事件はすぐに解決した。
一週間ほど経った頃、理美がふらりと帰って来たのだ。
「どこにいたの?」
「分からない。夜中一人で勉強してたら急に眠くなって
気が付いたら山の中に一人でいたの」
「とにかく無事でよかったわ」
婦人警察官が、傷がないか調べたが、
山を下りる時に草むらで少しかすり傷を負っただけだった。
事情聴取がされたが、犯人に繋がる手がかりもなく、
ストーカー男もその後見つからず、
警察は誘拐自体が行われたのか分からないと
理美を疑うようにまでになってしまった。
2週間ほどたっても理美の表情は晴れなかった。
覇気のない同居人の姿を見て、亜紀は提案をした。
「ねえ。気晴らしに温泉にでも行かない?」
亜紀は理美の返事も待たずに、スマホで適当に宿を予約した。
鉄道の駅から2時間ほど車で移動した山の中にある古民家風の古い旅館で
シーズンオフとあってか、宿泊客は二人だけだった。
長い廊下の先に大きな蔵のような離れがあるなど
造りが少し複雑でうっかりすると迷いそうな感じもしたが、
都会の喧騒もなく、静かな旅館は
理美の嫌な思い出も忘れさせてくれそうな気がした。
「お風呂行こうよ」
貸切状態の大浴場は快適だった。
二人はのんびりと湯船に浸かり、天然温泉の温かさを堪能した。
「来てよかった。ありがとうね。亜紀」
「うん。」
理美が久しぶりに笑顔を見せたので、亜紀も嬉しかった。
「背中流してあげる」
「ありがとう。お願い」
理美が湯船から上がった時、亜紀は思わず声を上げた。
「理美! 背中、背中に・・・」
「え?」
壁に付けられた鏡の曇りをお湯をかけて流し、
理美は自分の背中を映してみた。
「ぎゃあああああー!」
浴室の中に悲鳴がこだまし、
理美は裸のまま、背中を掻きむしった。
爪が食い込み、血がにじんだが、理美は止めなかった。
まるで頭がおかしくなったみたいに、何度も何度も背中を掻いた。
温まって赤く火照った理美の背中いっぱいに、白い文字が浮かんでいた。
入れ墨には透かし彫りとか浮彫りなどと呼ばれる技法がある。
肌の色に近い白い染料で入れ墨を入れると、
普段は目立たないが、お風呂に入った時など肌が紅潮すると
入れた模様が浮き出てくるのだ。
理美の背中には、書きなぐったような文字で
「愛している」「愛している」「LOVE YOU」
「生涯変わることなく愛をささげる・・・」
と、たくさんの愛の言葉が並んでいた。
その言葉一つ一つに、いくつもの見知らぬ男の名前が刻まれていた。
「いや。いや。消して! 消して~」
「ダメだよ。理美。消えないよ!」
背中をタオルで擦りながら亜紀は思った。
『そうだよ理美。消えないよ。
一生あんたはこの入れ墨を背負って生きるんだ。
あたしが好きだった先輩に近寄ったバツさ。
どこの誰でもない大勢の男の名前を背中に刻んだ女なんて、
もう誰も相手にしない。
愛を誓う言葉が、あんたをずっと苦しめるのさ。
あんたのそんな姿を見たかったんだよ、私は』
手足をばたつかせてもがく理美の姿を見下ろしながら、
亜紀はほくそ笑んでいた。
おわり
この作品に描かれている「おしろい彫り」というものは、実際には無いようなのですが、色々な染料が開発されている現在、実用化される日が来るかもしれません。
この話は、「めざせ100怪!ラジオde怪談」で放送されたものに、
加筆修正したものです。
「めざせ100怪!ラジオde怪談」は、「清原愛のGoing愛Way!」(SKYWAVE FM89.2(https://www.892fm.com/)にて毎週木曜日16:00~放送中)の番組内で100の怪談を特集する「怪談朗読特別企画」です。
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