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「ゆーちん。」・・・1985年の、 あの子のこと。


ゆーちんは、ぼんやりが大好き。
だから、陰で『抜けゆー』って呼ばれてる。


ゆーちんは、とてものんびり屋さん。
だから、出社は始業時間ギリギリ。


ゆーちんは、お客さんへのお茶を毎回こぼす。
だから、応接室にはお茶のサーバーが置かれた。


ゆーちんは、よく伝票を無くす。
だから、注文は全部エクセルで管理することになった。


ゆーちんは、おつかいが苦手。
だけど私は知っている。ゆーちんが苦手なおつかいは全部じゃない。


ゆーちんが、尾崎さんにおつかいを頼まれた。
買ってくるのは、新幹線の切符。博多までの6時間。

「だから絶対喫煙席だぞ。喫煙席2枚。吸える席。間違うんじゃねえぞ」
尾崎さんは三回も言った。

え?どうして飛行機じゃないのかって? 
だって飛行機はタバコが吸えないでしょ。

この頃は、新幹線にまだ喫煙車があった時代。
尾崎さんと同行する部長さんは二人ともチェーンスモーカーなの。
一日四箱。吸ってない時間は五分も無いんだもの。


ゆーちんは、いつものようにニコニコ。
だから、尾崎さんは「いくら『抜けゆー』でも、これくらいできるだろう」って言ってた。

ゆーちんは、いつも明るくて、みんな集まってくる。
だから、今日も尾崎さんがやってくる。

「おい! 喫煙って言ったのに、禁煙だったじゃないか!
おかげで5分おきに二人でデッキに出て吸うはめになったじゃないか!
6時間部長に頭下げっぱなしだったぞ。ほんとにお前は『抜けゆー』だな!」


ゆーちんは、ほんわか。
だから、返事も・・・「えへ。そうだった? ごめんなちゃい」

だけど私は知っている。尾崎さんが出て行った後、
ゆーちんが「ざまあみろ」って大笑いしたことを。


ゆーちんの笑顔は、みんな大好きだ。
だから、みんな幸せだ。あの人と、この人と、あいつ以外は。


                    おわり







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夢乃玉堂
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