「待ち合わせはダメよ」・・・超ショート怪談。カフェで待ち合わせている女の子が。
彼氏と初めての旅行。
荷物を揃えてオープンテラスのカフェで彼を待っていたら、
季節外れの黒いケープを着た白髪の老人が話しかけてきた。
「待ち合わせかい」
「ええ」
「悪いことは言わない。待つのはおよしなさい」
「変な事言わないでください」
少し語気を荒げて行ったが、老人は引き下がらなかった。
「私は霊能者だ。あなたには、危険な影が近寄っている。
待ち合わせはやめなさい」
アタシはちょっとドキッとした。
確かに彼は時々手が出る。出るけど、その後は優しいし、危険な影だなんて言われるほど悪い人じゃない。
いくら霊能者だからって、彼の事を悪く言ったら承知しないわよ。
彼は厳しく当たるのは、アタシを失うのが怖いからだ、といつも言ってるし、そりゃ、お小遣いもたくさんあげたし、今回の旅行のお金もアタシが出してるけど。彼はとっても可愛い笑顔でアタシに感謝してくれるのよ。
アタシは老人を無視した。
未来が分かるなんて怪しげな人にかかわっている場合じゃない。
もう過ぐ彼が来る。これから楽しい旅行なの。彼を待たないでどうするって言うのよ。
しかし、老人はずっと話し続けた。
「悪いことは言わない。その男を待たずに帰りなさい。
帰らなくても良いが、さっさとどこかに行きなさい」
「しつこいですよ。お店の人を呼びますよ」
と言い返した時だった、
暴走したトラックが、歩道を乗り越え、カフェに飛び込んできたのだ。
気が付くとアタシは、重いタイヤの下敷きになって、
首が変な方向に曲がったアタシ自身の体を見下ろしていた。
横断歩道の向こう側で呆然と見つめていた彼氏が、
逃げるように走り去っていくのが見える。
アタシの耳に老人が呟いた。
「だから、待つのはおよしなさいって言ったでしょう。
何かを待ったまま亡くなったら、
その場でずっと待ち続ける事になるんだよ。ヒヒヒ」
老人の言う通り、アタシは今もそこで待っている。
魂がその場に縛り付けられ、行く事も戻る事も出来ずに
何かを待っている。
あれ? アタシ、何を待っていたんだっけ。
思い出せないな・・・いいや。走ってる車の人に聞こう。
「ねえ。こっちへ来て。こっち、こっち。歩道のこっち側よ。
人が歩いているこっち側・・・」
おわり
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