「自動診断・嗅ぐ呼ぶくん」・・・怪談。最新式の医療器具がすすめるものとは。
AIが使い方次第で便利なのは、理解しているが、
その便利さに甘んじていると、暴走を食い止めることが出来ない。
AIが奉仕する相手は、何なのであろうか。
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『自動診断・カグヨブくん』 by夢乃玉堂
「こちらは、AI搭載型呼気検査機『カグヨブくん』です。
こちらの吸気口に息を吐きかけるだけで
あなたの健康状態が分かるんですよ」
診察室のベッドに横になっている俺は、医者の説明に頷いた。
「カグヨブくんは最新型でね。患者の呼気を嗅がせることによって、
健康状態や病気の有無などの他、患者のおおよその寿命まで教えてくれる。
それだけじゃない。必要な診療科を選定して、その科の専門医を呼んでくれる。同時に、その患者に必要な、薬の配合や手術室の予約、
輸血の手配までしてくれる。
時には医者の代わりに簡単な診察程度ならこなすことが出来る、
という優れモノなんだよ、きみぃ・・・」
医者は、ニコニコと嬉しそうに語り、隣の操作室に入って行った。
ぶ~ん。
低い駆動音が聞こえ始め、天井から吊るされたチューブが
俺の顔の前まで降りてきた。
「は~い。ではそのチューブを持って、先端に思いっきり息を吹きかけてください」
俺は言われるままチューブを口元に持ってきた。
真新しいのだろうか、化学製品の嫌な匂いがする。
「良いですか。はい吸って~吐いて。もう一度大きく吹きかけてください」
深呼吸してチューブに息を吹きかけると、枕元の計器が、急に電子音を出して何かを計算し始めた。
しばらくすると、『カグヨブくん』の合成した音声が、診察室に響いた。
「心臓その他に疾患があります。あなたの寿命は、残り2分です」
『2分? 何をふざけた事を言ってるんだ。この藪医者、いや、藪マシンめ!』
この機械変です。壊れてますよ。そう言おうとした瞬間、
俺の胸は締め付けられるように苦しくなり、意識が遠くなっていった。
診察室のドアをすり抜けて、黒いケープを纏い、大きな鎌を持った男が入って来た。
『必要に応じて手配を行いました・・・間も無くご臨終です』
ちくしょう。このボロ機械め、一体何を呼んだんだ。
闇に包まれる直前、俺は、男の持つ大きな鎌が振り下ろされるのを見た。
それが、俺が最後に見た風景だった。
カグヨブ君の声が聞こえる。
『手配完了。手配完了。続いて葬儀社の手配を行います。
患者様においては、四十九日以内に天国に行けるように手配をいたします』
おわり
*一部加筆・改訂。