「ロボット三○○」・・・大学の部室で先輩が言い出したこととは。
『ロボット三○○』
「話は変わるけど『ロボット三原則』は知ってるよね」
SF研究会の部室の中を歩きながら、井上先輩が突然話し出した。
『話は変わるけど』で始まると、井上さんの話は迷走しする。
変わりっぱなしの話が戻ってきたためしがないのだ。
それはともかく、ロボット三原則は我が大学のSF研究会の部員なら誰でも知っている。
部室の壁に、まるで会則やモットーのように張り出されているのだから。
「アイザック・アシモフのSF小説「われはロボット」に登場する、ロボットが従うべき、第一条から第三条までの三つの原則なのだけど、僕はあれは間違っていると思う」
SF界の伝説的巨匠を間違っているとは、やや暴走気味ではないのか、
大丈夫か井上先輩。
「僕はね、こう思うんだ。あれは、『人間の安全厳守、服従、自己防衛』を目指す、という夢や希望であって『原則』と呼ぶのはふさわしくない。」
う~ん。相変わらずの屁理屈だ。メンドクサイナ~。
部室にいる後輩たちが目を合わさないように顔を伏せた。
「だから、僕は別の三つを考えたんだ。いいか、これをよ~く見てみろよ」
先輩は、ホワイトボードに雑誌の切り抜きを3枚貼りだした。
「これは、最近放送されたアニメに登場するロボットたちだ。
無敵挑戦、無敵鋼鉄、機動戦隊。これらを見て気づくことは無いか?」
問いかけているように見えるからと言って、うっかり答えてはいけない。
この先輩は捻りにひねった答えを用意していて、必ずと言っていいほど
『なんだその発想はSF研究会の恥だな』と馬鹿にされる。
マウントを取ろうとするタイプなのだ。
誰も答えないので、勝ち誇ったように先輩は説明を続けた。
「いいか。よく見てみろ、どれもみんな、
ロボットの外観デザインが赤、青、白の三色だ。
だからこれを僕は、新しい『ロボット三原色』と呼びたい」
『それは原則じゃなくて、ゲンショクでしょ』とツッコミを入れてもらいたいのか、と疑いたくなるところだが、それはしてはならない。
またまた『くだらないツッコミを入れるな』と馬鹿にされるのが見えている。
部室に、困った半笑いが満ちていたが、先輩は我関せずで話を続けた。
俺の横で、後輩の鈴木が、ノートの余白に落書きをしていた。
「第一条。
後輩は先輩にツッコミをしてはならない。
その暴走は看過することによって、先輩に危害を及ぼさないようにする。
第二条
後輩は先輩からあたえられる情報を表向き鵜吞みにしなければならない。
ただし、その情報を放置することによって先輩が恥をかき傷つくなど、
第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
後輩は、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、
秘密裏に自己をまもらなければならない」
ふふふ、これは、センパイ三原則だな。
俺はその原則に従い、『赤、青、白以外に、黄色も多く使われているから、
三原色じゃなくて、四原色ですね』というツッコミをするのを止めた。
SF研究会の部室は平和なままだった。
おわり
*この話、ロボットアニメに詳しい人なら分かってもらえると思いますが
今も続編が作られている大ヒットロボットをはじめ、80年代初頭のロボットアニメの主役ロボットは、分かりやすい色分けがなされていました。
サ〇ライズ系の赤、青、白、黄色の他、マジ〇ガーシリーズの白、黒(濃紺?)、赤、黄色。
それ以前は、単色の物が多かったのですが、
カラーテレビの普及で、発色の良さを考慮したものだったのでしょうが、
その後はさらにテレビも良くなり、微妙な色使いも増えていますね。
ちなみに、
本物のロボット三原則はこんな感じです。
・第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。
また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。
ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
・第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、
自己をまもらなければならない。
『われはロボット』より
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