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「のってけ、のっけて」 

昨日ラヂオつくばの
「つくば You've got 84.2(発信chu)!(つくば ゆうがたはっしんちゅう)」で放送された作品を紹介します。

これからの季節を先取りした作品。懐かしいような気分でどうぞ。

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「のってけ、のっけて」 作  夢乃玉堂


夏休みも終盤に差し掛かると、航太(こうた)の高校はにわかに活気づく。

でも。『もうすぐ授業が始まる、超楽しみだ』なんて生徒は一人もいない。

理由は、休み明けすぐに学園祭があるからだ。

普通、学園祭の前になると生徒は勉強がおろそかになる。

「あの作り物は間に合うだろうか」
「模擬店のメニューはどうやって作ろうか」

と、どうしても身が入らない。
だったらいっその事、夏休みを学園祭の準備期間にしてしまえば、
授業のロスも少ないだろうというのが学校側の考えだ。

これには意外な効果もあった。
8月最後の登校日から準備を始めるのがルールなのだが、
ほとんどの生徒がそれまでに宿題を終わらせるようになった。

後(あと)に勉強が待っているのなら、貴重な休みは遊びたくなるけど、
後にお祭りが待っているなら、
その前に嫌いな勉強は済ませてしまいたくなるのだ。

「やるならお化け屋敷だろう! 思いっきり怖がらせてやろうぜ」

航太の声が2年A組の教室に響いた。

「お化け屋敷は、去年もやったじゃないの」

学級委員長の結月(ゆづき)が黒板に書きながら呟いた。

「だからだよ。凄い受けただろう。
廊下に長い列が出来てさ、入場制限するほどの大好評。
よそのクラスからも、又やってくれって言われてんだよ」

「俺は、模擬店でドーナツ屋やった方が嬉しいけどな」

「悠馬(ゆうま)は自分で食べたいだけだろう。
でも航太。去年受けたからって同じことをやっても受けないぜ」

「勿論だ、遥人(はると)。そこはちゃんと考えてある。
今時幽霊に化けて客を脅かすなんて古すぎる。
最先端のお化け屋敷は精神的に怖がらせるんだ。
例えば、通路を狭くして真っ暗にする。
その上で壁はごつごつしたり、ぶよぶよしたり。
床もマットレスとか敷いて柔らかくする。
客は、暗いよ~。狭いよ~。ぶよぶよするよ~って不安で怖くなる」

「じゃあさ、ガソリンスタンドの洗車マシンみたいのを
作ろうよ。でっかいモップの毛で客を叩きまくるんだ」

「いいね。闇の中で訳もわからず、引っぱたかれるのか」

「あんたたち、いい加減にしなさいよ。
そんなもの作ったら、いくらかかると思ってんのよ。
それにモップでお客さんを叩いたりして服を汚したら
クレームが来て中止になっちゃうわよ」

結月の一言は浮かれ気分の男子たちを黙らせた。
クラスの暴走を止めるのは、委員長の役目だが
盛り上がっていた議論に水を差したような気がして
結月は男子たちから目を逸らした。

叱られたような気分で皆が意気消沈する中、航太だけは諦めなかった。

「なあ委員長。触ったり、叩いたりしなきゃいいんだろう」

「まあそうね。脅かすだけなら」

「だったら古典と最先端のコラボでどうだ」

「どうするの?」

「まかせときな。悠馬。お前の家、マネキンが沢山あったよな」

「ああ。ブティックとかイベントにレンタルするから、4、50はあるよ」

「よっしゃ。そいつを通路にずらっと並べてさ。その中を客が歩く。
途中にこっそり人間が隠れてて、
マネキンだと思ったら突然動き出して脅かす」

「油断してるところを脅かすのね、面白そう」

結月も今度は賛成し、出し物はお化け屋敷に決まった。
大筋の形が出来ると、クラス中からアイデアが飛び出し、
人間の神経を脅かす事から、
イベント名も「シンケイ・重なり屋敷」に決まった。

それから数週間後、始業式が終わると
翌日から始まる学園祭のために校門に看板が掲げられた。
各クラスは模擬店やライブコンサートの準備に勤しんでいる。

「航太。夕方になったらレンタルに出してたマネキンが
帰って来るから、兄貴が運んでやるって」

「そいつは有難いや。俺と遥人も運び込むの手伝うよ」

50体ものマネキンを運び込むのは簡単ではなかった。
航太、悠馬、遥人は倉庫で、残りの結月たちは学校でと、
クラス総がかりでマネキンの積み下ろしが行われた。

悠馬君のお兄さんが会社の軽トラで
学校までマネキンを運んでくれるのだが、
ネタバレを避けるために、人目を避けて運ぶため、
最後の三体を積み込んだ時には、すっかり日が暮れていた。

「悠馬。これで最後だから、お前たちも一緒に乗ってけよ」

「兄貴サンキュー」
「お兄さんありがとうございます」

喜んだ航太たちだったが、軽トラの座席は前の一列のみ。
その後ろは全て平らな荷台になっている。
ドライバーのお兄さんと悠馬と遥人が前に乗ると、
航太は、後ろの荷台に、3体のマネキンと一緒に乗ることになった。

移動の途中も、三人の話題はお化け屋敷だった。

「口から血を流してるみたいなメイクをしようぜ」
「胸に包丁が刺さっているみたいに出来ないかな」
「恨みを持って襲ってくる感じにしたいな」

などと盛り上がっていると、
運転していた悠馬のお兄さんが、ぽつりと言い出した。

「本物の幽霊はそんなに派手じゃないんだよ」

「え? 見たことあるんですか?」

「ああ。前に使ってた倉庫だけどな。
マネキンを取りに行くと、いつの間にか数が増えてるんだよ。
変だな、と思って近づくと、見覚えのない白い顔したマネキンの目が
ギョロってこっちを見るんだ。
うわって声を出した途端、そいつはす~っと消えちまった」

「え~。それ怖いな~」

それをきっかけに車内は怪談大会になった。

「生きたままマネキンにされた女の声が聞こえる・・・」
「手首だけが夜中にデパートの床を這いまわる・・・」

そんな話が次々と飛び出した。

座席に座っている友人たちは良いのだが、マネキンと一緒にいる航太は、
気味が悪い。

突然、悠馬のお兄さんが声を上げた。

「ヤバイ。取り締まりだ。
後ろの彼、横になってマネキンの振りをするんだ。絶対動くなよ!」

軽トラは、乗車定員3名。荷台に乗っている航太は、定員オーバーで違反になる。

航太は、大急ぎでマネキンと同じようなポーズをとり、
荷台に寝ころんだ。

赤いライトを振って車を止めた女性警察官が、
手にしたセンサーを運転席の窓から差し込んできた。

「酒気帯び運転の検査です。ご協力願います」

お兄さんがセンサーにハ~っと息を吹きかけた。
女性警察官は、その結果を確認すると車内を覗き込み、
荷台にも目をやった。

運転席の3人はマズいと身構えたが、
見つからないでくれと祈るしかできない。
当の航太は、前で行われているやり取りを聞きながら
必死に息を止め、指先ひとつ動かさずにいた。

「積んでるのはマネキンですか。
ひぃ。ふぅ。みぃ。よぉ。いつつ。五体ですね」

座席の3人は驚いて後ろを振り返った。
航太を入れてもマネキンは4体のはずだ。

もっと驚いたのは一緒に寝ている航太だった。

『マネキンじゃない何かが、自分の横に居る!』

先ほどの怪談をも思い出し、急に怖くなった航太は、
うわあっと声を上げて起き上がってしまった。

「やあ。やっぱり後ろにも人が乗ってましたね」

「え? 5体見えたんじゃないんですか?」

「いいえ。最初から4体でしたよ。
ふふふ。この先も安全運転でお願いしますね」

女性警察官はにっこり笑って、反則切符を渡した。

航太は、簡単な計略に引っかかった自分に腹を立てた。
そして、責任を取って、学校まで歩いて行くことにしたが、
暗い夜道を歩いているうちに、たくさんの怖がらせ方を思いついた。

おかげで、2年A組のお化け屋敷は、歴代で最も怖いと大評判になった。

転んでもただでは起きない、
いや。寝ころんでも、ただでは起きない航太であった。


                    おわり



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