見出し画像

「バッテリー切れ」・・・超ショート怪談。終業前に果てる女。


総務のA子さんは、美人で明るくて実によく働く。
ニックネームは、「冬のバッテリー」だ。

クールな外見とエネルギッシュな活動からそう呼ばれているのだろう
と思ったが少し違った。

A子さんは、終業前になると椅子に座ったまま宙を見つめて
ぼぉっとしていることが多いのだ。

『なるほど。バッテリーが切れるっていう訳か』

と思った。
クールでエネルギーに溢れている女性が、一日の終わりに
全て使い果たしたように、ぼおっとしているなんて、ちょっとかわいく思えた。

ある日、いつもと同じように椅子に座って、宙を見つめているA子さんに
俺は思い切って声を掛けてみた。

「A子さん。いつもこの時間になると、疲れが出てくるみたいですね。
この後、気晴らしにどこかで充電しませんか?」

すると、A子さんは、目線ひとつ動かさないでこう言った。

「ありがとう。でも大丈夫よ。
今、営業部の田中くんと青木さんがくっつかない様に
生霊を飛ばしてるところだから。邪魔しないで」

「あまりに自然な口調に、どう対処していいのか分からず、
冗談だろうと自分に言い聞かせて、その日は帰った。

数日後、書類が必要になり、営業部に行くと
階段の踊り場で、痴話げんかをしている田中くんと青木さんがいた。

思わず物陰に隠れた俺の後ろに、
A子さんの気配を感じたような気がしたが、
振り返っても誰も居なかった。俺はそのまま営業部を後にした。

だが、一つだけ覚えている。
俺が立ち去る時、押し殺すような笑い声が確かに聞こえたのだ。

           おわり


#朗読 #生霊 #怪談 #短編 #総務部 #ショート #不思議 #小説 #オフィス #怖い #秘密 #恐怖 #美人 #バッテリー #会社 #終業前

いいなと思ったら応援しよう!

夢乃玉堂
ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。