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暑いから少し涼しいお話を。

毎日暑いですね。
熱中症が怖いです。どうぞお体にお気をつけてお過ごしください。

という訳で、少し涼しくなるお話を。

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「ミラクルマン」

我々アタックチームが、頂上を目指してベースキャンプを出発したのは、
午前5時。
尾根を縦走して4時間ほどで頂上に着くはずだったのだが、
天候の急変は予想をはるかに超え、すでに10時間以上経っていた。

激しい吹雪が止む気配は無く、
ほんの1メートル先も真っ白で何も見えない。
振り返っても、雪の上に残した足跡すら、数分でかき消されてしまう。

「大丈夫だ。希望を持て!」

リーダーが振り向いて声を掛けた。
気持ちがくじけそうになる時に声を出すのがリーダーの役目だ。

「俺の前を歩く赤い帽子の彼は、ミラクルマンだ。
すごい幸運の持ち主なんだ。
今まで彼が参加した登山隊は全員無事山を下りている。
勿論、死者は一人もいない。だから、安心して足を止めるな」

リーダーの言葉は私の心に沁みた。
絶体絶命の危機においては、根拠のないジンクスでも希望を与えてくれる。

普段ならば・・・だ。
しかし、今回は残念ながら、そうもいかないようだ。

私は吹雪に耐えながら、明日の新聞を想像した。
きっとこんな風に書かれるだろう。

「無謀な登山隊遭難。たった2人で3000メートル級の冬山に挑戦」

「ミラクルマン」なんかいない。
頂上を目指してキャンプを出たアタックチームは、私とリーダーの2人きりなのだから。

           おわり


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