
「彼の人生はまさに映画だった」・・・小林豊規監督。
映画「静かに燃えて」の凱旋上映を記念して、
小林監督の人となりを感じさせるエピソードを紹介します。
・・・・・・・・・・
小林豊規(とよのり本名一はじめ)くんに会ったのは、
40年以上前の事だった。
教室で、
「小林くん。家はどこ?」
と聞いて、
「銀座」
と答えられ、
「銀座って人住めるの?」
と失礼この上ない返事をしたのが最初だった。
彼は泰明小学校の裏手、本当に銀座に住んでいたのだ。
その後、中学生の頃から8mmフィルムで映画を撮影し続けている事、
すでに何本も劇映画やドキュメンタリー映画を作って来ている事を聞くと
単に「面白そうだ」というだけで、映画学科を選んだ自分が
全く恥ずかしく思えた。
そして、ヌーベルバーグから怪獣映画まで
どのような映画について聞いても、答えられない事は無く、
年間何百本と映画を観ているというその博識にも舌を巻いた。
「写真を撮るスチールカメラと区別したいから、
僕はムービーのカメラを、キャメラと呼ぶんだ」
当時の彼は、よくこう口にした。それは、映画に対する真摯なこだわりだったのだろう。
就職して数年、コマーシャルの仕事をやっていると聞き、
最先端の映像の仕事をしているな・・・と羨ましく思った。
その一方で彼は、
「映画が撮りたい」
と、よく呟くようになっていた。
CMやTV番組などのディレクターとして休みなく働き、
その手慣れた仕事ぶりが信用を生み、さらに映像の仕事が来る。
ひとつ仕事が評価されると、次々に仕事が舞い込み、本当に忙しそうだった。
仕事場での口癖は、
「これ、狙いだから・・・」
だった。
一見、違和感のある映像の組み合わせ、演出をするのだが、
試写をすると不思議に好評だった。
彼は常に挑戦する姿勢を崩さなかった。
電話や飲み会などで話をすることが増え、
面白い映画や面白くない映画について語り合い、
気が付けば夜中になっていることも少なくなかった。
そして2018年。
私の母が住んでいた家が空き、荷物置き場になっていたところに
「撮影に使えるなら使ってよ」
と小林くんを連れて行った。
その場で彼は何かひらめき、程なくして一本のシナリオを持ってきた。
表紙には、『静かに燃えて』と書かれていた。
母の家を舞台にし、女性同士の恋を描いた映画だった。
当時は、LGBTQに対する世間の認識も、今ほど受け入れられていなかった。
「マイナーな印象があって売りにくい」
「ネタ晴らしをせずに映画の魅力を宣伝しずらい」
そんなネガティブな事を言ったが、
小林くんは、自分の感覚を信じて撮影に入り、
あのコロナ禍も乗り越えて、ついに映画を完成させた。
2023年10月、 50年間映像の仕事に携わった映画監督のデビュー作。
初監督作品『静かに燃えて』が公開された。
劇場の大きな画面で見た時、
編集途中のパソコンの画面では読み取れなかった
映像の魅力、映画の魅力が感じられた。
ここまでの事をシナリオの段階から、きちんと頭の中で構築し、
現実の映像に写し込む、映画監督、映像作家としての才能を
改めて感じた。
「やはり映画は、監督のものだな」
と頭を下げた。
勢いに乗った小林くんは、
「これから日本のみならず、世界の映画界を席巻しよう」
「大衆も評論家も驚かせる映画を作ろう」
と熱く語った。
完成した映画「静かに燃えて」は好評のうちに公開を終え、
次の上映館も決まり、メイキングや次回作のシナリオを書いている
最中だった。
初公開からひと月半後、
小林くんは、インフルエンザに起因する心不全で急逝した。
中学生で初めて8mmフィルムで劇映画を作り、
64歳で長編映画を初監督した小林豊規監督の『静かに燃えて』は、
デビュー作にして遺作となった。
彼の遺作は、間もなく池袋シネマ・ロサで再上映されようとしている。
きっと当日は、劇場の最後列で、
観客たちの反応に一喜一憂している事だろう。
映画監督の死は、肉体の死ではなく、人の心から忘れられる事。
作品が忘れられた時、映画監督の魂は死を迎える、
と言った人がいます。
ならば、小林豊規監督は死ぬことはない。
彼の映画は、その感動と共に、多くの人々の心に残り続ける。
そして、映画を観、映画を考え、映画に魅了される時、
私たちの心に、彼の思い出は何度でも甦って来るのだ。
そして、2025年3月1日。小林監督の長編映画「静かに燃えて」は
池袋シネマ・ロサにて凱旋公開となった。
同時上映は中学時代に作った短編コメディ「山小屋生活」。

公式 サイトhttps://www.shizukanimoete-movie.com/
・上映作品 『静かに燃えて』 同時上映『山小屋生活(1973年)』
・上映劇場 池袋シネマ・ロサ

#映画 #静かに燃えて #小林豊規 #監督 #告白できないこの想い #女性同士の愛 #池袋シネマ・ロサ #デビュー作にして遺作 #不思議 #謎 #山小屋生活 #遺作 #デビュー #新人 #トークショー #犬童一心 #コミック #金剛地武志 #とみやまあゆみ #笛木陽子
いいなと思ったら応援しよう!
