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「呪いのお札」・・・でんわを待っていた理由は。


「かあさん。俺、会社の金を落としちゃって、今すぐ取引先に
持っていかなきゃいけないんだ。100万円用意出来るかな」

「分かった。今家にあるのは、古い1000円札ばっかりだけど、
それでも100万円はあると思う、それでいいかい?」

「うん、ありがとう。すぐに会社の若い奴が取りに行くから」

電話が切れた時、私はほくそ笑んだ。
ついにこの時が来た。

ようやく、この紙幣を使える時が来たのだ。

私は押入れの奥から、紙袋を取り出した。

中を見ると、旧紙幣の千円札。
一番上の一枚をめくると、その下に、
同じ千円札が束になって入っている。
だけど、最初の1枚だけが日本のお札で、本物。
あとは、亡くなった夫が、海外出張の時に買ってきた
どこかの国のお札だ。
真っ赤に染まってるから、どんな紙幣だかも分からない。

出張先の怪しげな呪い師から買ったらしいが、
「触っただけで死ぬお札」という触れ込みだった。

怖がりの私を驚かすつもりだったのだろうけど、
怖すぎて触る気にもならず、袋に入れたまま、
押入れの奥にしまい込んでいた。

その数日後に夫が亡くなり、忙しさにかまけて、
その紙幣のことも忘れていた。

最近、遺品整理をしている時に、この紙幣を見つけたのだ。
そして私は、これを使う機会を待っていた。

誰かが嫌な口の利き方をしたり、意地悪な事をしてきたりする者がいたら、
すぐに使ってやるつもりだったけど、不思議なもので、
待っていると、悪い事は起こらない。
ご近所さんは親切にしてくれるし、
電車の中でも強面の若者が席を譲ってくれる。

つくづく付いてないと思っていたところに、
さっきの電話だ。私は小躍りした。

オレオレ詐欺なら、安心して使えるし、罪悪感もない。
受け子の学生バイトが触らないようにしておけばいい。

私は、夫が生前説明した呪術の方法を思い出してやってみた。
まず、自分の手の平をカッターで軽く切り、
本物の紙幣の裏に、血文字を書いた。これが呪術のやり方だ。
正しい呪文などもあるらしいのだが、分からないので、こう書いた。

『触ると死ぬ』

そして、その下の紙幣に触れないよう気を付けて、
一番上に乗せた。

これを最初に触るのは、受け子ではない、受け子は表紙を見て確かめるだけだ。
その後は、下部組織の一員だろう。
下部とはいえ、悪い人の一味だ。私は正しい事をしているのだ。

さあ。
今度の呪術はどれくらいまで広がるかな。
全体に濡れているから、簡単にはお札の正体が分からない。
広げて、乾かして、銀行に持っていかないと、
両替もしてくれない。

そしたら、次に危ないのは、銀行の窓口の女の子たちだが、
銀行は夫が亡くなった時、相続税を払うためのお金を貸してくれなった。
だから・・・仕方ないわね。

ピンポーン。インターフォンの音が鳴った。

私は紙幣の入った袋の口を、ガムテープでぐるぐる巻きにして、
玄関に向かった。

          おわり

ちょっと無理くりなお話。
未だに振り込め詐欺のニュースが続くので、せめて呪いで
何とかしたいと思ってる、という酒宴での会話から書いた。

「触ると死ぬ」というフレーズだけが先行した作品。

#怪談 #オレオレ詐欺 #紙幣 #呪い #見ただけで #触ると #不思議 #謎

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夢乃玉堂
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