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「死者のアカウント」・・・急逝した人のSNSはどうなる?

人生何が起こるか分かりません。
常に万一を考えて、日々の行動に気を使っておかなければなりません。
もしそれを怠ると・・・
今回は、そんなお話です。

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「死者のアカウント」 by夢乃玉堂

「ねえ、絵麻ちゃん聞いてくれる。
健ちゃんのSNSアカウントが、まだ生きてるみたいなの」

待ち合わせたカフェに着くなり、めぐみはピンクのスマホを取り出し私に見せた。

『健ちゃん』とは、めぐみの夫で、私の会社の同僚だった飯島健のことだ。

「ほら。これ・・・」

見せられたSNSの画面には、美しい夕陽の写真が映し出されている。
記事の更新日は昨日だ。

「四十九日も済んで、課金されるアプリやサブスクなんかを
解約しようと思って、健ちゃんのスマホを立ち上げてみたんだけど、
今も更新されてるみたいなのよね」

「気味の悪いこと言わないでよ」

「だってぇ。今朝も更新されたみたいなの」

めぐみが画面に呼び出した写真を見て私は凍り付いた。

それは、健と北海道に出張した時、
ホテルのラウンジで星空を見ながら撮った写真だった。

その夜、飲み過ぎた私は健と初めて関係を持った。
一度限りのつもりだったが、以前から互いに仕事や家庭の愚痴を気楽に語り合っていた事もあり、ずるずるの不倫が健が交通事故で亡くなるまで続いていた。

「絵麻ちゃん。もし健ちゃんの幽霊がSNSをしているなら、アタシ、それでも良いんだぁ。これ、チョーラブラブな写真でしょ。だから恥ずかしいけど削除しないで、アカウントも残すことにしたの。ほらほら見て!」

「!」

ピンクのスマホに、健と二人で撮った写真が次々に映し出された。
全部、出張と偽って、めぐみに内緒で行った場所だ。

沖縄のビーチ、京都の神社、夜景の奇麗な六甲山。
時々、自分の手や影が映り込んでいて、背筋が冷たくなったが
めぐみは特に気にすることも無く写真を見せて行った。

「健ちゃん、写真が趣味だったもんね」

めぐみは、バッグからもう一つのスマホを取り出した。
黒い革のカバーを着けた健のスマホだった。

そう。確かに健は写真を撮るのが好きだった。
新しい場所、珍しい食べ物、他にない絶景など、
気に入ったものをすぐに写真に撮っていった。
日常を撮らないではいられない、ある種の写真マニアと言った方が
良いだろう。
しかし、私と二人でいる時には、非常に気を遣う。
食事は二人分に見えてはいけないし、
記念写真のように二人で写る訳にはいかない。
時折、観光客がシャッターを押しましょうか、と親切に言って来るが、
すべて断った。

健は外で写真を撮る時、とても気を遣っていた。

その分、人目の無い所では次第に大胆になり、
ついには、ベッドの中で二人の写真を撮るようになっていた。
最初は嫌だと拒んだ私も、気が付けば健に乗せられ
次第に大胆なポーズをとっていった・・・。
もちろん、簡単には開けない秘密のホルダーに仕舞っておいたのだが、
夫を亡くした妻が申請すれば、閲覧の許可が出るのだろう。

「健ちゃんは、きっといろんな人に見て欲しいんだと思うわ。
だから、幽霊になって、SNSに撮った写真をアップさせてるのよ。
次は何がアップされるかな。絵麻ちゃんも楽しみでしょ」

めぐみは、両頬にえくぼを浮かべて笑った。
スマホの画面では総会員数が十億人を超えたSNSのアプリが起動していた。



                 おわり


自分が無くなった時に、プライベート写真がどうなるかと考えると、
終活も大切ですね。

「死者のアカウント」は、毎週木曜日16:00~放送のSKYWAVE FM 「清原愛のGoing愛Way!」の「めざせ100怪!ラジオde怪談」のシリーズとして朗読されました。

*一部加筆改訂

詳細は、清原愛さんのフェイスブックなどでご確認ください。

https://www.facebook.com/kiyoharaai

お時間のある方は是非。

また、オリジナルの朗読に使える作品集を販売しています。
下記よりご確認ください。

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夢乃玉堂
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