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「柿入道」・・・伝説から。

「柿入道」 作 夢乃玉堂

秋の味覚はたくさんありますが、中でも柿はその鮮やかな色も含めて
季節を感じさせてくれます。
秋の色を失っていく風景のなかで、たくさんの実をつけた柿の木は
季節を感じさせくれます。

東北のとある村に、欲張りな庄屋さんがいました。
その庄屋の屋敷には、塀際に生えた大きな柿の木があって、
毎年大きな実が成ります。

木の枝は、塀を越えてはみ出しているので、道行く人は、
熟して落ちた柿を拾っては、「これは旨い」と喜んで食べていました。

ところが、庄屋さんはこれを良く思っていませんでした。

塀からはみ出た枝をみんな切ってしまい、
成った柿の木を独り占めしてしまったのです。

毎年のように落ちた柿を拾っていた村人たちは、
庄屋さんに、

「たくさんあるのだから、余った分を少し分けてくれんかね」

と頼みましたが、

庄屋さんは、

「うちの柿はうちのもんだ。他にはやらん」

と絶対に分け与えませんでした。

大きな木なので、柿の実は蔵一杯になるほど獲れます。
とても庄屋さんの家だけでは食べきれないので、
残った分は腐らせてしまうのです。

それでも庄屋さんは、

「他の奴らに食われなくて良かった」

と言って、次の年も柿を独り占めするのでした。

そんなある日、余った柿の木をまとめて捨てていた庭の隅に、
小さな芽が出ました。
芽は、あっという間に大きくなって、元の木を超えてしまいました。

「これは、良い木だ。もう元の柿の木はいらないな」

酷い庄屋さんは、元の柿の木を切り倒して燃やし、灰にして
新しい木の根元に撒いたのです。

すると新しい木はどんどん大きくなり、てっぺんが雲の中に隠れるほど
大きく伸びていきました。

「これは大きな実が出来るに違いない」

庄屋さんは収穫を楽しみにして眠りにつきました。

その夜、庄屋さんは夢を見ました。

庭の大きな柿の木が、大入道になって、夢の中に現れたのです。

「わしは柿の木の柿入道じゃ。庄屋よ。柿の実が欲しいか~」

柿入道は言います。

「はい。たくさん欲しいです。大きくて甘いのをたくさんください」

大喜びで庄屋さんが返事をすると、
柿入道の脇の下から、たくさんの柿の実が飛び出してくるではありませんか。
庄屋が大きく手を広げて受け取ろうとしたところで、目が覚めてしまいました。

庄屋は、気になって、すぐに布団を出て、柿の木を見に行きました。

すると木があるはずのところに、ぽっかりと大きな穴が開いています。

「これはどうしたことじゃ。柿の木はどこへ行った。一杯実をつける筈の柿の木が無くなってしまった」

と思っていると、空の上から、「ほうら。柿の実をやるぞ~」と声がします。

そして、空のかなたからヒューと音がしたと思った次の瞬間、
どす~んと音を立てて、
人の背丈ほどもある柿の実が目の前に落ちてきました。

「うわ~。これは凄い柿の木じゃ」

どすんどすんと大きな柿の実が次々と落ちてきます。

ところが、柿の実が落ちてくるのは、庭だけではありませんでした。
蔵にも、かいば小屋にも、母屋にも落ちてきます。

柿は、瞬く間に屋敷中の建物を潰し、
塀の中を柿の実で埋め尽くしてしまいました。

翌朝、明るくなるとたくさんあった柿の実は全て消え失せ、
残ったのは、壊れた建物だけでした。

それ以来、庄屋は「もう柿の実を独り占めにはしない」と言い続けましたが
その家の庭には、二度と柿の木が生えることは無かったと
伝えられています。

              おわり


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夢乃玉堂
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