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注視すべきはピッチ上のことだ【2021年 J2 第39節 ヴァンフォーレ甲府対松本山雅】
いよいよ足音が迫ってきましたね。
もちろん選手・クラブは最後まであきらめず戦ってほしいですが、もう「運」なども味方にしないと残れないところまで来てしまったので、私も少しずつ覚悟をしているつもりです。
戦いの先には、次の戦いが待っています。このまま力なく落ちてしまえば、来年、相手は「あの松本山雅を一泡吹かせてやろう」と躍起になってくるでしょう。ただ最後まで戦い抜き、ギリギリの末に訪れた結果には、それ相応のリスペクトもつくはずです。
今の戦いは、今だけでなく、未来の松本山雅のため。残るための一戦一戦を無駄にしてはいけない。そう思います。
今はサッカーに集中します。応援のことやフロントのこと、結果ばかりが目立つ中で言いたい気持ちは重々わかりますが、それを今引き出してしまうと、本当に収拾つかなくなるだけな気がして。それって今日負けた選手たちの責任ですか?って。そういうことまで背負わせるのは酷な気がして。
試合結果
3-2で敗戦。前半に失点、後半翔さんと阪野で二度追いつくも、その二度ともすぐに勝ち越される展開。
合わせる技術がある部分と合わせられる弱さがたくさん出た試合でした。
スタメン
河合くんとサトカズを欠いたこの一戦。前Tがボランチに入り、前線3枚は流動的に動きました。速攻の場合は最近確立してきた榎本くんをターゲットにしたソリボールっぽいやつで、遅攻の場合はボランチからWBに出してのビルドアップ。
甲府はメンデスが厄介な縦パスを出してくるし両WBは仕掛けてくるし宮崎は弧を描いたいい軌道のクロスを上げてくるしリラは強いしとにかく個性的でした。もっとも厄介だったのは長谷川元希。宮部くんの大学の先輩にあたりますね。来年J1行くんじゃないでしょうか。
前半まとめ
前半は、大きく分けて19分のゴールの前の時間と後の時間に分けられます。
先制点までの19分間
序盤から松本は、榎本くんがフィットしたことによって最近やり始めたソリボールっぽいサッカーを展開します。開始2分にはロングボールから榎本くんが甲府DFのメンデスに競り勝ち、翔さんが抜け出してあと少しでGKと一対一の局面を作り出します。
対する甲府は、サイドから深い位置まで持ち込み、一旦後ろに下げたところから縦パスを差し込み、バイタル付近でチャンスを作ります。
メンデスを中心に甲府が思うように縦パスを通せていたのは、この日の松本の守備の配置に難があったからだと思います。松本の守備は、セルジを含めた最前線3枚を横並びに置く5-2-3。3枚が流動的にローテーションしながらディフェンスをするのですが、ここが行かな(行けな)かったりすることで、アンドゥと前Tで守る中盤に膨大なスぺースを与えることになっていました。
両WBもディフェンスラインに吸収される形になっており、甲府は松本の1列目を通過するとその先のサイドで悠々とボールを持つことができていました。松本はそこから中盤の2枚なり下川なり宮部くんが遅れて対処するのですが、それで精一杯。一旦バックパスで視界を変えられると、全体がサイドに釣られていて反応が遅れるので、メンデスが入れる縦パスに誰も対応できない状態になっていました。
甲府の先制点に繋がったCKも、奥のサイドを深い所まで侵入された結果によるもの。最前線を3枚にしたのはおそらく攻撃の枚数を物理的に増やしたいのと相手の3CBをけん制する意図があったのかもしれませんが、前に余って、中が薄くて、後ろに余ってしまっている状態で失点してしまったのは、、まだそんな感じでやられているの?って感じでした。
ゴール後から前半終了まで
久々に先制点を奪われた松本でしたが、失点しても大崩れしなくなったのはポジティブな部分です。失点・飲水タイム後から徐々に榎本くん目掛けたロングボールを出さなくなりました。それに代わって、下川外山からクロスで中に合わせる形でゴールに迫ります。遅攻を増やしたともいえます。
甲府は先制点を奪ったことで、ややゲームを落ち着かせにきました。松本のディフェンスラインのパス回しに突っ込んでこなくなり、ややラインを下げて5-4-1で構える時間が増えました。
それにより松本はイチかバチかの榎本くん作戦をひとまず抑え、組み立てる時間ができるようになったわけです。ただ甲府のブロックを揺さぶることはできず、4-1の前側のブロックの手前で回している時間が多く、なかなか脅威とはなりきれていない印象でした。更にそこを突破できたとしても、下川外山の個の力によるクロス、翔さん榎本くんの独走など、一人一人が無理して打開しようとするプレー選択が多く、単発で終わってシュートまでいくことができていませんでした。
圧倒的に相手の守備の方が人数が揃っているんですよ。ということはつまり相手の立ち位置を崩せていないということ。相手にいなされたまま終えた前半でした。
後半まとめ
かなり慌ただしい後半でした。80分過ぎに乱打戦となりましたが、口火を切った翔さんのゴールの前の段階から、徐々にそうなる要素が集まってきていました。
消極的だった後半立ち上がり
両チーム、ハーフタイムでの交代はなし。後半の立ち上がりの松本は、前半に引き続き、甲府に主導権を握られる展開となりました。
前半同様、5-2-3で前線がローテーションしながら構える守備でしたが、両WBが出てこないこともあって、結局サイドの深い所まで易々と持っていかれていました。特にこちらの左サイド、外山のポジショニングが、マッチアップする関口に対してかなり遠かったのが気になりました。今日の試合はサイドはミラーになっているわけで、WBは自ずと相手のWBと1対1に噛み合わせが起こります。しかしプレッシャーをかけないと、その分自由を与えてしまうし、連鎖的にCBのプレー範囲が狭まってしまうので、もっと前からプレスをかけて欲しいと思う立ち上がりでした。
見えてきた相手の喰いつき
消極的に見えた後半の立ち上がりでしたが、57分の一つのプレーで雰囲気が少し変化しました。外山に出したパスに対して、相手右WBの関口が高い位置から喰いついてきました。それによって右CBの浦上との距離が空き、前Tはそのスペースにすかさず縦パスを差し込みます。ラインの駆け引きのあと抜け出した受けた翔さんが中の榎本くんへ。ダイレクトで合わせたシュートでしたが、GKの正面でした。
このプレーがきっかけとなったのかはわかりませんが、それからマイボール時は外山も下川も相手のWBと近い距離でプレーするようになった気がします。そして最もフリーにさせてはいけない長谷川に常田がプレスをかけやすくなったようにも見えました。
後半20分を過ぎると、やや甲府の運動量が落ちてきて、ボールを持っていても立って回すような展開になります。それに対し松本のプレスがかかりはじめ、怒涛の80分に向けて、次第にオープンな展開になっていきます。
なぜ乱打戦は起こったのか
わずか5分間の間に2-2と大きくスコアが動いた80分過ぎ。一概にこれだ!と言うのは難しいですが、甲府側・松本側に分けて、いくつかそれが起こった原因を考えてみたいと思います。
【甲府側】選手交代と運動量低下
久々の出場だったボランチの中村は、75分で交代。代わりに鳥海がシャドーに入り、前線で散々起点になって苦しめられた長谷川をボランチの位置に落としこちらも交代で入った山田と2ボランチを組みます。この交代と配置転換は松本にとってやりやすくなるものになりました。こちらの深い所で時間を作られなくなったことで、逆に前からのプレスがハマり、相手陣内に入りやすくなった感じです。
更にアップダウンを繰り返していた両WBの荒木と関口に消耗が出てきていました。攻撃では脅威になり続けていましたが、守備への切り替えで後手を踏むことが多くなり、CBのメンデスが釣られて出てきてしまい、その裏に下川が上手く抜け出すことができた、というわけです。
前半のWBの上りに「無理がある」と書きましたが、得点時の下川の上りは、相手を釣り出した上でスペースがある状態で深い所まで行けていたので、非常に効果的だったと思います。1点目のコーナーに繋がるクロスのシーンも宮崎と追い越した荒木の裏を突くいいランニングでしたし、2点目もセルジと翔さんでうまくメンデスと荒木を釣り出してできたスペースに走り込んでのクロスから阪野のヘッドでした。この時の下川に対応していたのがボランチの山田だったことからも相手を崩していたことがわかります。
ただ甲府は取られてもすぐ取り返してきました。淡い期待を抱く間もなく、クロスに合わせる技術の高さをこれでもかというほど見せつけてくれました。ぬか喜びでした。ではなぜ甲府がすぐに取り返せたのか。今度は松本側から。
【松本側】落ち着かせる者の不在
なんか抽象的になってしまいましたが、追う側の我々は、追いついたときに落ち着かせるべきだったと思います。それは試合後に名波さんも言っていますが、結局追いついて浮足立ってしまって、あれよあれよとすぐに取り返されてしまいました。せっかく追いついてもバタバタしてしまうのが、まさに今のチーム状況そのものだなって感じました。
追加点を喰らったのは、単純に前の選手は取りに行こうとしているのに5バックがドン引きしたことでアタッキングサードまで持っていかれ、折り返されたもの。下川も引きすぎていたし、逆のパウロもシュートコースを消しに行くべきでした。
更に決勝点は、宮崎のクロスにこそ二人掛かりでブロックに行ったものの、圍がキャッチングの判断を躊躇った感がありました。プラス放り込み要員として投入されたはずのワァンが急遽CBに入ったことで逆にマークがルーズになっていた感じがありました。甲府側もそうですが、松本側でも交代が少し裏目に出ているように感じました。
結局バタバタしてぬか喜びになってしまいましたが、甲府側のところで書いた下川の攻撃に、琉球戦ゴールの再現のような翔さんの詰め、シュート職人阪野と、クロスとそれに合わせる技術はちゃんと持っている部分を見せることもできていただけに、勿体なかったです。
端的に言えば「オープンな展開になった」で片付くわけですが、それでもその展開に向かっていく過程・そこで起きていることは状況とともにいろいろ変化していたことがわかります。
さてまとまらなくなりました。高崎の涙、本当に印象的でした。ただ冒頭でも似たようなことを書きましたが、少なくとも今シーズンまでは高崎は甲府の選手。まずは残留を目指している今の山雅の選手を一番に応援したいと思っています。現実から目を逸らして感情に任せすぎないようにしたいところです。