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夢は世界一のバッテリー #47



その後は追加点もなく、スコアはそのまま10-1で阪神に軍配が上がった
結局打球を処理することもなく終えた○○だった

○:いって...

たまにズキっと痛む膝
バレてしまっては元も子もないのでそそくさと裏に回る

新:みんな、道具片付けたらロッカールーム集合ね

一気にチームに緊張感が走る
表情は固いままベンチを後にした

佐:...

上:ごめんな晴斗

佐:いえ、今日は僕が悪いんです

初回から得点圏にランナーを置き続けたファイターズ
リード面に自信ができたからこそ過信していた部分はある

上:明日もある、切り替えてけ

佐:ありがとうございます...

交流戦の初戦は今季の課題が残る1戦となった




咲:大丈夫かな…

帰宅後も心配で仕方ない咲月
帰る前にマネージャーに呼び止められ、臨時の打ち合わせが入ってしまい時計を確認するともう22時を回っていた

和:大丈夫だって!○○なら知らん顔で走り回ってるよ!

咲:和も見たでしょ…?あの顔は...

和:...とりあえず試合結果見ようよ

ということで野球速報を開く
試合結果は10-1

咲:まぁ点差は大体...そこじゃなくて…

すぐさま成績を開く
○○は2打数1安打だった

和:打席立ってるならそのまま出たってことじゃない?

名前の横にもしっかりと『打中』と書かれている

咲:良かった…!ほんとに心配ばっかりかけてっ…!

胸を撫で下ろす咲月
余程心配だったのだろう

ピコンッ

和:ん、美空からだ...

既に家でゆっくりしているであろう美空からのLINE
しかしこんな時間に来ることは珍しい

和:急ぎの連絡かな...?

咲:ちょっと○○のことエゴサしよっと...

「絶対さっちゃんにネットで○○の事調べないよう言っといて!」

和:えっ...?さっちゃんストップ!

咲:...なにこれ...

時すでに遅し
ネット上では過激派ファン達が論争を繰り広げていた


『いや金川スライディング下手すぎ』
『これで岡ちゃん怪我したらどうするの?』


『岡崎もタイミングセーフなんだから諦めればいいのにw』


『ていうか金川の走路的にも岡崎潰しに行ってるでしょ』


『岡崎体格いいからってうちの金川くん怪我させようとするのやめてくれない?』


『でもある程度走力あるんだから金川も勢い弱めろよw』
『ルーキーで活躍してるからって調子乗っちゃったねw』


咲:っ...!この人達っ!

和:さっちゃん落ち着いて?ね?

サラッと咲月のスマホを取り上げて隠す和
しかし咲月の怒りは収まらない

咲:駿くんだって○○だってわざとぶつかってる訳じゃないのに...!

咲:調子乗ってる...?○○が謙虚なの知らないくせに好きに何でもかんでも書いてるなんて...!許せないっ!

和:わかったから!

ガチャッ

一:あぁ...間に合わなかった...

和:美空〜!助けて〜!

多くのファンは怪我がなかったことに安心する声や、接触後お互いを気にかける2人を讃える声も多くあった

しかし危険なプレーという部分に焦点を当て、互いの選手を擁護する声をあげる人も多かった





トレ:はい、アイシングするから膝出してね〜

○:絶対冷たいじゃん...嫌だ〜...

トレ:監督の反対押し切って出場したの誰かな〜?

○:...僕です

トレ:じゃあ氷水に足突っ込んでね〜笑

こちらはこちらで氷水が嫌で駄々をこねていた
高校時代からアイシングは大嫌いな○○
例えプロになろうとそこは変わっていないようだ

○:ぴゃぁ...つめたぃ...

トレ:じゃあ20分冷やそっか

○:20!? いやっ...無理ですって...!

トレ:じゃあしばらく試合は出せないな〜

○:むぅ...冷やせばいいんでしょ冷やせばっ!絶対耐えてやる...

小さい子供のように意地になった模様
笹岡トレーナーは笑いながらロッカールームに戻っていった

○:ひゃぁ...アイシング嫌だ...体冷やしたら風邪ひくじゃん...

ブーブー文句を言いながら20分待つことに
シャワールームまで度々聞こえる監督の声

○:珍しい...

普段から温厚な新庄監督
ここまで声を大きくして叱る場面は珍しい

○:俺も聞かなきゃダメでしょ...

笹岡トレーナー曰く、『○○は言わなくても分かってると思うから』と、言ってアイシングを優先させたらしい

チームももちろんだが○○の心配要素は他にもある

○:駿...大丈夫かな...

接触相手の駿だった
その後も試合には出続けたものの、8回からは梅野がマスクを被っていた

○:アイシング終わったら連絡してみるか...

駿:おう、じゃあ連絡頼むな

○:うん...っているじゃん!

既に着替えを終えた駿がシャワールームに来ていた
ロッカールームは経由しなくてもここには来れるので忍び込んできたらしい

○:バレたら怒られるでしょ…

駿:大丈夫だって、うちの先輩方もう帰ってるもん笑

○:てか大丈夫だった?

駿:俺は大丈夫、逆に俺も○○が心配で見に来たところあるからな...

駿は氷水に浸っている○○の脚に目を向ける
赤く腫れる膝
遠い記憶の中で暗い顔をした相棒

駿:...再発してないよな?

○:うん、トレーナーさんにも診てもらったけど打撲だって

駿:そっか、なら良かったよ

○:ほんとにごめん

今1度頭を下げる○○

駿:だから大丈夫だって笑

駿:全力でやった結果なら誰も文句言わないよ

駿:それで文句とか下手とか言うならやってみてって話なんだから笑

プロの世界はまた1つ違う

最高峰の技術が集まる世界だ
実際にプレーしてみなければ分からない部分は沢山ある

駿:どうせ色々言う奴はいるんだから気にすんな!

○:...励ましてくれて嬉しいけど今日俺にヒット打たれてたねっ笑

駿:よし、氷水に沈めてやるから覚悟しろよ

○:絶対やめて?





『セカンドライナー!試合終了です!』
『タイガース、交流戦は三連勝スタートです!』

チームは勢いを落とし、阪神にまさかの3タテを喰らった
ベンチの雰囲気も圧倒的にピリピリしている

○:...

○○も先発はないのでベンチで見ているしかないのだが、ウズウズして仕方ないようだ
次のカードは舞台を本拠地に移してDeNAとの3連戦

○:何とかしないと...

このチームの雰囲気をあげるためにも何とかリズムを作りたいところ
本当であれば3連戦の2戦目か3戦目が先発の予定だが...

○:監督、僕って何戦目先発ですか?

ロッカールームで試合中に出た課題や感じたことをメモにまとめている新庄監督に声をかけた

新:うーん...2戦目か3戦目の予定だったんだけど4連敗中だからね...

○:...初戦に予定に変える感じですか?

新:凄いな...笑 エスパーでも使えるの?笑

心を読まれ、ニヤニヤしている
しかし直ぐに険しい顔に戻る

新:膝の調子はどう?

○:全然大丈夫です!この3連戦出たくてウズウズしてたので...

新:そうか...じゃあ初戦に移しても大丈夫?

○:もちろんです!

新:わかった、建山コーチとも相談してみて大丈夫だったら今日中に連絡するよ

○:はいっ!




紗:...

弓:へへっ...○○くんと仲良くなっちゃうもんね〜!

山:お主も悪よの〜!

田:もう頭から離れなくしてあげないとねっ♡

紗:なんでこうなるの…笑

ナイターのDeNA戦を控えたこの日
午前中から気合いの入った3人がいたのは空港だった

紗耶はたまたま北海道での仕事と被った為、一緒に行こうということになったらしい

紗:というか美月さん大丈夫なんですか?

山:うんっ!全然大丈夫!

美月はこの一昨日に卒業を発表したばかり
多忙を極めるエースの休みが何故○○になるのか

山:だって○○のご両親に挨拶しないと結婚認めて貰えないもんっ!

紗:え...

田:美月さんが...恋敵ってこと...?

弓:いいじゃないですか!私もついでに挨拶します!

恐らく美月のいう『挨拶』の意味がわかっていない奈於
卒業を控えた美月の挨拶なんてほぼ告白みたいなものだ

紗:美月さん敵は多いですよ?笑

山:うそうそ笑

山:いつもやんちゃんにも○○にも助けられる事多いからさ

山:『いつもありがとうございますっ!』って言っておきたくて笑

美月は何度か○○の家には行っている
○○の父母も顔見知りだ

田:危ない...美月さんに勝てるわけないよ...

紗:まゆたんは本気で狙ってるの?笑

田:当たり前じゃん!プロ入り前から私の推し選手なんだから!

紗:あのね...まゆたんアイドルなんだからそんな堂々とされても困るのよ...笑

自分のグッズ一式をサイン付きで○○に送り付け、どうしたらいいと悩ませたほどだ

弓:○○くんの家に持っていくお土産も買ったし!準備万端!

いつものキメ顔に親指を突き上げている

紗:ちゃんと○○応援しましょうね!

山:あったりまえよ!

田:待ってなさいよ〜!

弓:虜にしてやるんだから!

朝早いのにも関わらず元気MAXの4人
今回は1泊2日の旅なので絶対に○○との接触がある

...○○の安全が心配なところだ




○:真っ直ぐで!

伏:はいよっ!

○:ふぅ...フンッ

ビュッ

バギャンッ

伏:ナイスボール!

織:気合い入ってんな〜笑

今日は晴斗ではなく伏見とバッテリーを組むことになった

阪神3連戦はスタメンマスクを被った晴斗だったが、配球面、打撃面で思ったような成果が残せず今日はベンチスタート

○:ふぅ...

伏:あんまり気負いすぎるなよ?

○:大丈夫です!今のチームを動かすために必要なのは勝つことよりも起爆剤なので!

伏:これをルーキーに言わせてるようじゃ...俺達もまだまだってことだな...

○:僕が出来ることがこれしかないだけです

○:伏見さんもですけど先輩方はもっとチームを変えていけるんですから羨ましいばかりですよ...笑

肩は温まった
マウンドで投げることにワクワクしすぎていつも以上に気持ちが昂っている

織:○○!もうそろだって!

○:はい!最後もう一球真っ直ぐで!

伏:あいよ!(○○のためにも...チームのためにも...かっこ悪いところは見せられないぞ...)

○:ふぅ...

今日はワインドアップを封印していつものフォームに戻した
なぜだか今日はこっちの方がいい気がしている

○:フンッ

ビュッ

バギャンッ

伏:よしっ!行こう!

○:よしっ...

ブルペンを出てフィールドに上がる
今日も選手を応援しにたくさんのファンが詰めかけている

○:久々だな...この感覚っ...!

監督直々に『今日はピッチング集中で!』と注文が入っているのでDHにはマルティネスが入っている


○:ふぅ...


今季10試合目となる先発
登場曲を背にマウンドに上がった

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