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あなたの隣に立つために #14



絶対に泣き付かれることが確定している帰り道
それでも1度、理子と瞳月を迎えに行かなければならない

○:母さん帰ってきてるかな…

天母:まさかこんな事態の時に北海道で仕事なんてね笑

○:母さんがいたら危険な目にあってたかもしれないのである意味良かったかもです笑

天母:○○のママなら絶対殴り込み行くからね笑

ここだけの話母さんは昔ヤンチャしていたらしい
ひかるの母や夏鈴の母と3人でここら一帯を仕切っていたとかいなかったとか

○:天ママはヤンチャしてなさそう笑

天母:私はそういうの怖くて全然できなかったからね笑

聖母のような人だ
そんなことはできるはずもない

天母:ほら、着いたよ

気づけば家の前
車を降りて覚悟を決める

○:…飛びつかれませんように

天母:無理だと思うけどね〜笑

いざインターホン


ピンポーン


○:あ、○○で...


ガチャッ


ギュウッ


瞳:○…○く”ん…グスンッ

予想通り突撃してきた
着ているシャツを貫通してくる温かい涙
表情は見せてくれない

○:瞳月?

瞳:もう嫌だ…グスンッ…なんで…グスッ…なんでそんなにしーのこと不安にさせるん…?

訛りが出た時の瞳月は少しまずい
普段から独占欲の強い瞳月が暴走する合図なのだ

○:ごめん

瞳:だから言ったやん…グスンッ…昨日病院行ったらって…グスンッ…

愛:しーはずっと不安な気持ちだったんだよ

後ろから愛季が顔を見せる
愛季も少し安心したのか目が潤んでいる

愛:昨日だって寝る前も『○○くん…ごめんね…』ってずっと泣いてた…

○:…

ぎゅっと抱き締めている体が震えている
昨日愛季の家に送った時を最後にその後の○○の様子は全く分からない
道中を知るからこそ不安で仕方なかったのだ

瞳:もういやや…心がもたんよ…グスンッ…

○:瞳月、ごめんね

震える体を抱きしめる
まだ瞳月は顔を見せてくれない

○:昨日は必死に目の前の状況を対処することしか頭になくて、少し焦ってた

○:それで瞳月を不安にさせちゃったのは俺の責任、本当にごめん

瞳:グスンッ…うんっ…グスッ…

○:でも瞳月に怪我がなくて本当に良かった

○:なんなら瞳月が康希にトドメ刺してたし笑

決定打は瞳月の蹴り
逆に瞳月がいなかったら今頃どうなっていたことか

○:ありがとう、瞳月がいたから俺は無事だった

瞳:…もう危ないことしない…?グスンッ

○:うん、絶対にしない

瞳:…約束やからな…グスンッ…

○:ふふっ…約束ねっ!

天母:あらあら、抱っこなんてしちゃって!笑

未だに離れる様子がない瞳月
玄関で止まるのも悪いので抱き抱えて中に入る

愛:ねぇ…

○:ん?

愛:なんで私仲間はずれなの…?

○:ごめんね、瞳月のことありがとうね

愛:そうじゃなくてっ!

瞳月を抱き抱えているのだが目の前に立ち塞がる
俯いて小さな手をギュッと握った

愛:○○達がピンチだったのに…なんで頼ってくれなかったのさ…!

○:…

愛:今は無事だからいいかもしれない…

愛:でもっ!もし…もし最悪な状態になった時に…



『置いていかれる方の気持ちも考えてよっ!』



一滴の涙が床に落ちた
木目の間に染みていく水滴
悲しみに満ちた顔がこちらを覗く

○:愛季…

愛:もちろんりーも…しーも…天ちゃんも…るんちゃんもみんな大好き…

愛:でも○○のことも大好きなんだよ…?私にとって大切で大好きな人の1人なんだよ…?


忘れてはいけない
『置いていかれる方の気持ち』

痛いほど分かっていたはずなのに
そう感じさせてしまった


○:ごめん…

愛:無茶しないでよ…グスッ…私を置いていかないでっ…グスンッ…

瞼に収まりきらなかった涙が頬を伝っていく
消え入るように放った言葉は大きく○○にのしかかった

○:置いていかない、誰一人として置いていかないよ

愛:うぅ…○○っ…グスンッ…

瞳月を降ろすわけにもいかないので片手で瞳月を抱き、もう片方の空いた手で愛季の小さな頭を抱いた

○:…

自分は大丈夫、後でなんとかなる
そう思っていてもここまで周りを悲しませるなら絶対にもう無茶なんてしない
そう心に決めた瞬間だった

天:ありゃ、凄い泣いてる笑

まるで想定していたかのように迎えに来た天
いつものバカにしたような笑顔ではない

○:2人だけじゃない

○:正直夏鈴やひかる、玲に言うのも怖いんだよね

正義感の強い夏鈴は絶対に怒る
なんなら殴りかかってくる可能性もある

天:今日は上手く逃げれたけど…明日には詰められるからなぁ…

○:ひかるだって怒るよ…

普段ニコニコしている玲とひかるでさえも怒る
そう考えると明日の登校以降の未来が想像できない

愛:グスンッ…

瞳:グスッ…

○:でも隠し事はしたくない ナデナデ

天:私も付き合うよ

○:心強いね笑 助かるよ笑

天だけでは無い
麗奈もいざとなれば止めてくれるだろう

○:じゃあ荷物もって帰るね

天:○○ママ帰ってきた?まだなら家いてもいいよ?

時間的にはまだ掛かるだろう
しかし、お世話になりすぎた

○:いや大丈夫だよ、瞳月と理子を安心させてあげないと笑

天:そうだね笑

そういえば理子が見えない

○:あれ?理子は?

天:えっと…安心して寝ちゃった笑

リビングに入るとスヤスヤと眠る天使がいた
どうやら昨日は全く寝付けず寝不足だったらしい

○:どうしようかな…

おんぶしようにも瞳月も抱き抱えている

瞳:ギュッ…

そして離す様子もない
結局、理子は天の背中で眠ることになった



○:瞳月〜、降りて〜笑

瞳:いやや…離さん…

天:理子ちゃん可愛い…笑

理:Zzz...

天に家まで運んでもらい、ソファに寝かせたものの全く起きる気配がない
可愛い寝顔をこちらに向けている

瞳:ギュゥッ…

○:瞳月…笑

そして瞳月も変わらずだ

○:これじゃ母さん帰ってきても説明できないよ笑

天:私は帰ろっかな

天:家族の時間は邪魔できないからねっ!

グーサインにドヤ顔
いつもならツッコミたくなるが今日は感謝が勝った

○:ありがとね、理子のことも

天:いやツッコまないんかい!

ツッコミ待ちだったんかい

○:また今度母さんとお礼に行くよ

天:いやほんとにいいから!来ても玄関開けないからね!

それは開けてくれ
外に放置されることほど悲しいことは無い

理:んんっ…にぃ…ちゃん…

○:お、理子起きた

天:それじゃあまたね

タイミングもあり天はすぐ帰って行った
昨日1日いなかっただけなのに凄く久々に感じる

○:瞳月、ちょっといい?

瞳:ん…いやや

○:もぅ…わがまましーちゃんなんだから笑

仕方ないのでそのまま理子の隣に腰を下ろす

○:理子、にぃちゃん大丈夫だったよ

理:…ギュッ

瞳月ごと抱き締められる
まだ眠たいのか目は少ししょぼしょぼしている

○:理…

理:今は…何も言わないで…

○:分かった

必死に泣くのを堪えているようにも見える
唇を震わせながら目元が赤くなり始めた

しばらく無音の時間が続いた
たまに瞳月がモゾモゾ動くので衣服同士が擦れる音だけがリビングに存在している

理:にぃちゃん…?

しばらくした後、理子が口を開いた

○:ん?

理:にぃちゃんは…りーのことどう思ってる…?

少し潤んだ目元
パッチリとした瞳が離してくれない

○:理子は世界で1番可愛い妹だよ

理:…りーもにぃちゃんは世界で1番かっこいいお兄ちゃんだと思ってる…

理:だから…1つ約束…

○:約束?

理:…


『絶対に無理はしないで』

『何かあったら2人で解決する』

『もうにぃちゃんを失うかもなんて…思いたくないから…』


向けられた小指
ここで約束してしまったら”あの未来”を変えることは少し難しくなる

○:…

理:りー気づいた

理:多分、にぃちゃんが大好きなんだなって

普段から仲はいい方だと思っている
しかし、いざ面と向かって言われると少し照れる

○:そっか…

理:だから昨日の夜すごい不安だった

理:りー置いていかれちゃうかなって…にぃちゃんいなくなったらどうしようって…

理:りーが置いていかれるなら…

理:にぃちゃんを守ってりーが先に…

瞳月ごめん

抱き抱えていた瞳月を理子の反対側に降ろす
そしてそれ以上言わせないように抱き締めた


○:それ以上言うな

○:理子は俺なんか守らなくていい

○:だから先に行こうなんて考えるな


○○にしては珍しく強い口調
理子も驚いたのか静かになった
瞳月も空気が変わったのを感じたのか静かにちょこんと座っている

○:理子は好きなように生きたらいい

○:にぃちゃんの事なんて気にしなくていいんだ

○:その分、大好きな人みんなを笑顔にしてあげてね

ようやく背中に理子の腕が回ってきた
少しびっくりさせてしまったのは分かっている
でもこれだけは言っておかないと絶対に後悔する

○:(…悟られてもおかしくないな)

ここまで言えば何が起きるかなんて言っているようなもの
理子も怯えてしまうのでは…そう思っていた

理:…ならにぃちゃんも笑顔にしてあげないとね!

しかし返ってきたのは満面の笑み
いつも助けられてきた可愛い笑顔だ

理:言ったじゃん!りーもにぃちゃん大好きって!

○:理子…

理:もちろんしーもだよ!

瞳:やっとターン回ってきた…

後ろから瞳月が抱きついてくる
自然と2人に挟まれる状態になる

ピンポーン

○:ちょっ…母さん帰ってきたから!

理:無理〜!離れませ〜ん!

瞳:ウチをほったらかした罰やな

○:母さんごめ〜ん!

鍵を開けて鬼の形相の母さんを迎え入れたのはインターホンが鳴ってから10分後のことだった



昨晩、出来事全てを母さんに話した
もちろん泣かれたし、怒られた
あんなに感情を剥き出しにした母さんは久々に見た

それでも最後は抱き締められた
恥ずかしいが、親の温かさに泣いてしまったのは内緒だ

○:行ってきます!

○母:行ってらっしゃい!テスト頑張るんだよ!

理:お母さん行ってきます!

○母:うん!理子も瞳月ちゃんもテスト頑張ってね!

瞳:ありがとうございます!

今日は生憎の雨
傘を持って登校することに

○:2人とも気をつけるんだよ?

瞳:えっと…

理:にぃちゃん生きて帰って来れないかも…

○:へ…?

振り返った道にはとても人間とは思えない覇気を纏った3人と少し脅えた2人がいた

瞳:が、がんばってね!

理:骨は拾うから!

○:いや!ちょっと待って…!

身の危険を感じたのか理子も瞳月も駆け足で愛季を迎えに行った

天:○○おはよう!先行ってるね!

麗:麗奈も〜!

○:お、おはよう!俺も急いでいかな…


ガシッ


夏:行かせるとでも?

危機察知能力がここまでピンピンなことは無い
救いだった天と麗奈はもう見えない

ひ:随分と黙っててくれたね?

玲:私達…友達だよね?

○:友達ですね…はい…

もう後ろなんて見れない
掴まれた肩がどんどん痛くなってくる

夏:じゃあお話しよっか

ひ:大丈夫、テストには間に合うようにする

玲:安静にしなきゃいけないみたいだから暴力もしないし

○:…

今から入れる保険ありますか?

夏:そんなのあるわけないでしょ

ですよね…

ひ:ふふっ、○○とのお話なんて楽しみー

玲:いっぱいお話しようねー

○:ひっ…



もう一度病院送りにされるかと思った
昨日詰め込んだ勉強内容もおかげでぶっ飛んだ

学校はテスト2日目
今日は重たい科目が名を連ねている
必死に問題を解き、気づけばすぐに下校時間だった

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