あなたの隣に立つために #12
○:じゃあ最終日頑張ってこ!
『おー!』
昨日のようないざこざも無くスっと集まった○○達
ここ2日の追い込みで既にテスト範囲は網羅している
あとは確認だけ
年下組、同級生組それぞれに分かれる
○:なんか分からないとこあったり、確認したい場所ある?
麗:ここなんだけど…
天:夏鈴ここの問題って素直に解いていいんだよね?
夏:うん、そこは変に勘繰らなくていいよ
本気モードの同級生組
今回のテストが終わればみんなでお出かけ
それだけが勉強のモチベだった
ひ:…
玲:ひかる大丈夫?
ひ:う〜ん…勉強じゃないんだけどさ…
玲:余裕だね笑
ひ:そういうのじゃないから笑
ノートを広げつつも視線の先には麗奈がいた
ひ:ねぇ玲ちゃん
玲:…私も薄々感じてるよ
ひ:やっぱり?
『絶対麗奈ちゃん、○○のこと好きだよね?』
転校してきてから異次元の早さで仲良くなった麗奈
加えて○○にベタベタと来たらそう思うのも無理は無い
玲:こりゃまた争奪戦激しくなるね〜笑
ひ:…
仲良さそうに話す麗奈と○○
その距離は幼馴染、いやそれ以上だった
ひ:私も…
心がモヤモヤするのは何故なのか
ひかるにはわからなかった
玲:ん?ここわかんないって?
ひ:へっ!?
夏:いやなんで驚いてるの…笑
思わず集中してしまい、周りの会話が聞こえてこなかった
夏:私が玲に聞こうとしたら私もって言うから笑
ひ:あ…そ、そうそう!ここ私もわかんなくてさ〜!
玲:じゃあ説明するね?
丁寧に解説してくれている玲の声も耳に入らなかった
ただ説明している玲の指を目で追うだけ
麗:やっぱりそうなんだね…
○:ここは応用だからちょっと難しいかもね
麗:うんっ!ありがとう○○!
○:いえいえ、麗奈もテスト頑張ってね
麗:○○もね!
ひ:…
私には出せない距離感
結局玲は2回説明することになった
瞳:それで?
理:にぃちゃんと何したの〜?
ニヤニヤした2人に詰められる愛季
正直なところ何もしていない
愛:何にもしてないよ笑
瞳:積極性で有名な愛季が何もしないわけないじゃん
理:あ、もしかして妹だからって気にしてる?別に大丈夫だよ?
愛:いやほんとに…笑
でもドキドキしたのは確かだ
何度唇を奪ってやろうと思ったことか
愛:そういう瞳月も○○家来てからなんかないの?
瞳:へっ…///
まさかこちらに矛先が向くと思っていなかったのか一気にモゴモゴと話し始める
理:確かに…りー居ないところとかでも2人でいるよね?
瞳:いやそれは…その…モゴモゴ…///
愛:分かった、しー○○のこと好きなんでしょ
瞳:…///
理:無言は肯定だよ?笑
愛:まぁ無理もないよね笑
瞳月にとって○○は救ってくれた恩人
惚れてしまうのも無理は無い
瞳:でも○○くん恩人だからそんな好きとかは…尊敬の方が大きいかも
理:嘘つかなくていいよ?笑
瞳:…ホントは大好き…///
愛:きゃー!
理:そりゃそうだよね!
瞳:○○くんいなかったら今の私いないもん、心からありがとうって何回も言いたいくらいに大好き
何よりも康希から守ってくれたのが大きいらしい
瞳月の瞳に映るのは○○だけだ
愛:でも…
理:にぃちゃん競争率高いからな〜
それでも簡単に手に入れられないのが○○
周りには強敵がゴロゴロいる
瞳:そうなの…○○くんモテモテ過ぎ…
視線の先には麗奈に教える○○の姿
どんな仕草でもときめいてしまう
恋は盲目というやつだ
ふと目が合う
○:ん?瞳月も分からないところある?
瞳:ううん、○○くん見てただけ
○:え?ほんとに?ちょっと怖いんだけど笑
麗:あ、この人が決めたのをこの人が受け継いだのか!
○:そうそう!いいじゃん!
しかしすぐに麗奈の方に戻ってしまう
愛:しー、一緒に頑張ろうね
瞳:愛季も…?じゃあ私たちライバルじゃん笑
理:2人とも応援するよ、ひかるちゃん達手強すぎるから気をつけてね?
既に同級生組を敵対意識しているようだ
○○争奪戦が激化するのは間違いないだろう
確認も終わり、あとは各々家でやることに
○○も知らない間に疲れが溜まっていたのかみんなが帰った後、急な眠気に襲われて眠ってしまった
○:…パチッ
目を開けると外は既に真っ暗
この3日間賑やかだった家が急に静かになり、どこか少し寂しさがある
○:ソファで寝るなんて…んんぅ…
大きく伸びをして深呼吸をする
滅多にソファで寝落ちしない○○なので体が少し痛い
○:勉強するか…
恐らく理子がかけてくれたタオルケット
おかげで安眠できた
○:…寝てるのかな?
家にいるのは恐らく理子と瞳月だけ
リビングの電気をつけて2階に向かう
部屋に近づいても物音1つしない
コンコンッ
○:理子〜、瞳月〜
応答もない
○:寝てるのか…まぁ頑張ってたもんな
そう思いながら部屋に戻ろうとする
しかし、○○の耳はとある音を拾った
”ドンッ…パンッ…パタッ…”
○:なんの音だ…?
先程は物音もしなかった理子の部屋からだ
恐る恐る近づく
”…フーッ…ンンッ…ンー!…”
その音は次第に主張を強める
○○も流石に怪しいのでノックをして入ることにした
○:理子〜入るぞ?
ドアを開けるも電気はついていない
しかし、部屋に差し込む月光は音の正体を映し出した
○:理子…理子!
そこには両腕両足を縛られ、口にガムテープを貼られた理子がいた
理:…っ!…っ!!…
すぐに紐を解いて四肢を解放させる
○:ガムテープ剥がすから動かないで
顔を傷つけないよう慎重に剥がしていく
目は潤んでおり、かなり怖がっている様子
○:よしよし…いい子だ理子
剥がし終えると途端に叫んだ
理:しーが…しーが!
○:瞳月…?
理:はぁ…はぁ…っ…!
あまりの焦りから過呼吸になってしまっている
○○は冷静に理子の背中を撫でながら深呼吸を促す
○:大丈夫、大丈夫
理:ふぅ…っ…はぁ…っ…ふぅ…
○:その調子、ゆっくり深呼吸だよ
理:ふぅ〜…すぅ〜…
○:そうそう、落ち着いてね
こういう時こそ冷静でいられたのは○○の経験からだろう
高校生のままの○○なら確実にパニックになっていただろう
理:にぃちゃん…っ…しーが…!
『しーが…康希にっ…!』
涙ながらに震える理子
何が起きたかはすぐにわかった
○:康希は今どこかわかる?
理:分からない…でもしーを『俺のおもちゃ』って言ってた…
○:なんでここがわかった…?
瞳月がここにいる確信を与えるような要素はなかったはずだ
ましてや康希の家から○○の家には距離がある
ずっと見張っていないと分からないはずだ
○:なんで気づかなかったんだ…寝てる暇なんてなかったんだ…!何やってんだ馬鹿野郎!
理:にぃちゃん…怖いよ…はぁ…っはぁ…!
中学生にとって年上の男に縛られ、友達が連れ去られていくなんて衝撃が強すぎる
当然今の理子はトラウマから1人でいることなんて出来ない
○:どうしたらっ…!考えろ考えろっ…!
目の前で泣き怯える妹
そして連れ去られた”もう1人”の妹
○:こんな時に動けないやつがっ…何かを変えられるわけないだろっ!
立ち尽くしてしまう
脳内がごちゃごちゃし始める
理:にぃ…ちゃんっ…っはぁ…助けっ…っ…!
○:どうしたらっ…!
ピンポーン
錯乱状態の○○宅
鳴らしたのは誰なのか
○:誰だ…こんな時に…
理:っ…はぁ…はぁ…
○:理子!しっかりしろ!
理子も若干酸欠状態になっている
上手く呼吸ができないまま倒れそうになっている
ピンポーン
○:理子少し我慢してくれ!
どうしようも無くなった○○は理子を抱き、そのまま玄関に向かう
○:入れ!
そして乱雑に通話ボタンを押して中に入るよう促す
康希という可能性も捨てきれないので理子をソファに寝かせ、すぐ近くで待機する
ガチャッ
○:大丈夫だ理子…お兄ちゃんが守ってやるからな
理:にぃ…ちゃん…
玄関を開けてすぐさまリビングに入ってくる
家の構造は知っている様子
○:大丈夫だ…理子…
ガチャンッ
『○○〜!忘れも…』
○:麗奈…何しに来た
家にやってきたのは麗奈だった
しかしいつもと違う○○の様子、苦しそうに横たわる理子
何かを感じた
麗:落ち着いてよ、忘れ物しちゃって…
○:ほんとか…?
麗:理子ちゃん…?理子ちゃん!○○何があったの!?ねぇ!
○:理子には近づくな、忘れ物を持って直ぐに帰れ
冷徹で殺気を帯びた視線、極限状態まで追い詰められた○○は先ほどの冷静さを欠いていた
麗奈も怖気付いてしまう
麗:理子ちゃん…理子ちゃん!
○:近づくな!
麗:○○落ち着いて!私は○○の味方!今は疑われても仕方ないのかもしれない…でも今そんなことしてる暇ないよ!
○:はぁ…はぁ…
麗:落ち着いて、何があったの?
○:康希だ…康希が瞳月を連れ去ったみたいなんだ…
麗:それで理子ちゃんは?
○:理子は部屋で縛られてガムテープで口を塞がれてた…多分理子が助けを呼べないようにしたんだ…
麗:なんて酷いこと…!
○:どうしたらいい…どうしようどうしよう!理子を置いて助けに行く?理子を1人にさせるのか…?でも瞳月は…?どうするんだよ…このまま見捨てるのかよっ!
パニックに陥る○○
麗:○○!落ち着いて!
○:はぁ…はぁ…どうしようどうしよう…!
麗:落ち着きなってば!
バチンッ
思いっきり振りかぶって頬に1発喰らわせる
それと同時に止まる○○
麗:今家にいるのは○○と理子ちゃんだけじゃない!私も頼ってよ!
○:…
麗:私は戦うとかできないし…山下くんをやっつけるなんてできない
麗:でも○○と理子ちゃんに寄り添うことはできるよ!
麗:頼ってよ…なんで全部1人で解決しようとするのさ!
家に響くほどの大声
麗奈がこんなに声を荒らげるのは初めてだった
○:ごめん…
麗:理子ちゃんは私が守る、例え私が病院送りにされても理子ちゃんだけは守り抜く
すぐさま袋を用意して、深く深呼吸するように促す
理子も麗奈に支えられながら何とか深呼吸を試みる
麗:だから○○は瞳月ちゃんを守って!
麗:こんな事しか出来ないけど…助けられるのは私たちしかいない!
○:っ…!理子を頼んだ!
麗:うん!早く瞳月ちゃんを!
ようやく冷静さを取り戻した○○
家を飛び出し向かう先は康希宅
○:はぁ…はぁ…
靴なんて履かずに裸足のまま走ってきた
目の前には電気の着いた康希の家
○:今度こそ…ぶん殴ってやる…!
ドアノブを捻り、勢いよく玄関のドアを開ける
○:おい康希!どこだ!出てこいよ!
康:うるさいよ○○
リビングから康希が出てくる
上裸の姿、加えて目つきも普通ではなかった
○:てめぇ…!よくも!
康:おいおい、丸腰で立ち向かうのかい?笑
思いっきり拳を振りかぶる康希
その拳は○○の顎に命中
○:がっ…っ…
思わず蹲る
康:馬鹿だな〜、お前を呼び出すための囮だよ
指の隙間から見えるリビングには無傷の瞳月
しかし、どこか脅えているようにも見える
○:瞳月が…無事なら…
康:だよな〜、○○くんはあのおもちゃ大好きだもんな〜
ドスッ
○:あ”っ…!
蹲った○○の腹に蹴りを1発入れる
康:ふぅ〜…満足満足、おいお前もう帰っていいぞ
瞳:…○○…くん…!
リビングから瞳月が小走りで出てくる
出てくるなりすぐに○○に駆け寄る
瞳:○○くん…!○○くん!
○:うぅ…大丈夫だ瞳月…ゴホゴホッ…
瞳:っ…!
康:なんだよ?やるか?
何かの糸が切れたように瞳月は立ち上がり康希に向かっていく
○:瞳月…!止まれ…!
○○も意識朦朧のなか瞳月を止めようとする
瞳:…
康:お前は予定になかったけど…そんなに壊してほしっ…!
○:え?
無言のまま、瞳月は仁王立ちする康希の急所を一蹴り
もちろん康希は悶絶どころが、白目を剥き、気絶
瞳:お前なんかが…○○くんをいじめるなんて私は許さない…
瞳:今度○○くんに指一本でも触れてみな…私が黙ってないよ?
○:わぁぉ…
ぼやけた視界でもハッキリ分かった
男にとってのシンボルは壊滅しただろう
瞳:○○くん!大丈夫!?
そして振り返る時にはいつもの瞳月
焦ったようにもう一度駆け寄る
○:瞳月…どこでそんなの覚えたの…
瞳:偶然だよ、○○くんを傷つけるのが許せなくて
○:助かったのは確かだよ…でも危ないんだからっ…クラッ…
顎の1発が聞いているのか脳が揺れる
力が少し抜けてしまう
瞳:今すぐ手当しないと!
○:大丈夫大丈夫、少しクラっと来ただけ…
○:その前に警察を呼ぼう、こいつはもう終わりだ
その後呼んだ警察が到着したと同時に康希は意識が回復
そのまま現行犯で連行されて行った
救急車を呼ぶかと言われたが、○○も少しずつ回復していたので断った
まずは康希に事情聴取するのでその後に話を聞かせて欲しいとの事だった
その予定を立ててとりあえずその場は解散となる
○:瞳月…ちょっと肩借りてもいい…?
瞳:だから救急車呼ぼって言ったのに…
○:明日…テストじゃん…サボれないよ…
瞳:バカ!テストなんて気にしてる場合じゃないでしょ!
怒りつつも肩を支えてくれる瞳月
華奢な体でもしっかり支えてくれている
○:違うんだ
○:俺、みんなとまた集まって勉強会出来たのが嬉しくて仕方なかったんだ…
もう夜は深い
今から帰ったらもう11時近いだろう
○:こんなの教えてたな〜って…ここ誰が得意だっけ…とか、思い出だけが浮かんできてさ
○:どうしても…今回のテストだけは受けたかった…
瞳:自分の体心配してよ…○○くんが無理して助けに来て…取り返しつかなかったらどうしようって…怖くて…
理子も含め怖い体験をしたんだ
簡単に癒えるものでは無い
○:大丈夫、俺はどうなってもいい
○:瞳月も勉強会に参加した1人じゃん?
○:みんなで頑張ったんだから…誰か1人抜けるなんて許せなかったんだよ
瞳:ほんとに…バカっ…
支えるために回されていた腕を軸に体を回転させ、○○の胸に収まる
○:バカで悪かったな
胸がだんだんと熱くなってくる
涙を隠す”妹”を優しく包み込んだ
帰宅後
理子もだいぶ落ち着き、安定はしてきたもののカウンセリングを受けさせることにした
瞳月も同様にカウンセリングを受けさせ、○○は明日のテスト終了後、病院の診察を受けに行くことにした
結局瞳月だけでなく、麗奈にも怒られた○○
これで康希の件はようやく一件落着だ
メンタル面を考え、事情を話して瞳月は近所の愛季の家、理子は天の家で夜を過ごしてもらうことにした
自室のベッドで横になる○○
横には心配だからと、少しの間だけ麗奈がいてくれていた
○:麗奈
麗:おバカさんどうしたの?
○:おバカさんって…
どうやらまだ怒っている様子
麗:一匹狼の間違いだったね、ごめん
○:そこじゃないだろ
○:…改めてありがとうって言いたくて
○:麗奈がいなかったら理子も瞳月もどうなってたか分からない
○:囮って言ってたけど俺が行かなかったら瞳月が危なかった
麗:…
ボーッとする頭で必死に言葉を紡ぐ
○:そして何より、麗奈の言葉がなかったらあのまま何も出来ずにまた失敗するところだった
○:助けてくれて…ありがとう
素直に感謝をぶつける
麗奈も照れているのかそっぽを向く
麗:別に…○○じゃなくて理子ちゃんと瞳月ちゃん助けたかっただけだからねっ
麗:…でも無事でよかった
内心ホッとしたのか、安堵の涙が出てくる
麗:無理しすぎるのもダメだよ…?私の心臓いくらあっても足りないんだから…
○:肝に銘じます…
麗:ねぇ○○…
麗:私を助けてくれて…ありがとう…
○:え…?それってどういう…!
麗:さてと!帰って勉強しないとな〜
言及される前に立ち上がる麗奈
○○には聞きたいことが沢山ある
○:麗奈!
麗:なに?赤点取らせるつもりなの?笑
○:どういう意味…?麗奈を助けたって…
麗:え?何の話?
○:何の話って今自分で言ってたじゃん…
麗:えっ?今麗奈なんか言った?
いつものとぼけ顔ではなく、本当に知らない顔
まるで人が変わったかのようだ
○:でも今…
麗:ほら!○○くんも明日テストなんでしょ?早く寝ないと!
足早に帰っていく麗奈
取り残された○○もあまりの頭痛に気持ち悪くなり、すぐに眠りにつくことにした