相席したのは今をときめくアイドルだった
○:はぁ…もうなんにも上手くいかない…
絶賛肩を落として歩くスーツのこの男性
その背中はかなり哀愁漂う
○:プレゼン失敗するし…部長からブチギレられるし…取引先に関しては俺悪くないのに文句言われて…
○:くそが…もう全部どうでもいいや
そう言って近くの居酒屋に飛び込む
店:いらっしゃいませー!
店:何名様ですか?
○:1人です…
店:(すっごい負のオーラが…)た、只今満席でして…相席になってしまうんですけどよろしかったですか?
○:大丈夫です…
店:(やりにくい…)で、ではこちらどうぞ!
店員に奥の小上がりの席に案内される
そこにはかなり若い綺麗な女性がいた
年齢もかなり近いと思われる
店:お客様、只今満席でして相席して頂いてよろしかったですか?
そもそも1人で小上がりなんて珍しい
普通であればカウンターに案内されるだろう
?:ジーッ
○:💦
その女性はこちらをじっと見つめる
眼力の強さに少し怯む
?:大丈夫ですよ!
見つめたかと思えばすぐ笑顔で店員に声をかける
店:大変申し訳ありません!ありがとうございます!
案内を終えそそくさと戻っていく店員
○○はあまりの気まずさにその場から動けずにいた
?:突っ立ってないで座ったらどうですか笑
かなり顔が整っている
こんな居酒屋に1人でいていい顔じゃない
○:し、失礼します…
さっきまでの飲み潰れてやろうという気持ちは消え
どうやってここから早く帰るかを考えていた
○:…
?:…
席に座るもかなり気まずい
?:スーツ着てるけどお仕事帰りですか?
○:へっ!?あぁ、まぁ、はい…
?:へっ!?だって笑
ケラケラと笑う女性
○:そういうあなたはお仕事帰りじゃないんですか?
?:う〜ん、お名前なんて言うんですか?
笑われて仕返ししてやろうとしたがまさかの質問返しを受ける
○:え?
?:名前、なんて言うんですか?
意図してないだろうが眼力が強すぎる
少し怖いくらいまである
○:○、○○って言います
?:○○さん私の事見た事ないですか?
○:え?
急な覚えてませんか発言に驚きが隠せない
この場合どちらと答えても地雷の可能性がある
○:う〜ん…
?:この顔ですよ〜
そう言って顔をぐいっと近づけてくる
少し顔を前に出せば鼻先が触れるほどの距離
○:ちょっ!近いです!///
?:照れてる〜可愛い〜笑
すっかり手玉に取られている○○
悔しいことに自分でも顔が赤いのがわかる
○:み、見たことないです
?:まじか〜私ももっと頑張らなきゃな〜笑
そう言って天を仰ぐ
この言い方だと有名人らしい
?:乃木坂46って知ってます?
○:まぁ聞いたことはありますよ
?:そこのメンバーです私
○:えぇ! モゴモゴ
驚きの声が女性の手によって遮られる
こんな時になんだが指はかなり細い
?:しーっ!声でかい!
○:だって…
?:バレないように入るの大変だったんですから!
カバンから帽子やマスクなどの変装道具を見せつけてくる
かなり人気なんだろう
○:聞くのも失礼なんですけど…お名前なんて言うんですか?
?:えぇ〜?教えな〜い!笑
まさかの答えに拍子抜けしてしまう
バラエティならズッコケるところだろう
○:教えてくれてもいいじゃないですか!
?:知ってどうなるの?
○:え、それは…
?:まぁ気になるなら家に帰ったあとでも調べてみてよ
?:今は相席相手なんだから、一緒に飲も?
そう言って笑う彼女の笑顔は小悪魔的だった
気を抜けばあっさり好きになってしまう
○:じゃあ本名だとあれなので偽名だけでも決めましょうよ
?:○○さんは○○さんね!
○:なんで俺だけ本名なの…
?:細かいこと気にしない!そうだなぁ…ミツキでいいよ!
○:じゃあミツキさんって呼びますね!
ミ:うーん
なにやら納得がいかない様子
○:?
ミ:硬っ苦しい!呼び捨て敬語禁止!
○:無理
ミ:なぁんでよ〜!!
腕を組んでこちらを可愛く睨むミツキ
全く怖くない
○:だってミツキさんアイドルなんでしょ?
ミ:それとこれとは関係ないのっ!
プンプンと1人で怒っている
机の上のビールのジョッキを持ち上げ、飲もうとする
…が
ミ:あ、○○何も頼んでないじゃん
○:確かに
店員さんを呼びお酒や1品料理などを頼む
○:え、そんなに食べるの?
ミ:え?普通でしょ
店員さんのオーダー用紙が2枚目に突入する
だがミツキは止まる様子はない
○:とりあえずそれでお願いします
店:かしこまりました!お飲み物だけお先に持ってきますね!
”かんぱーい!”
○:ゴクッゴクッ
ミ:ゴクッゴクッ
2人ともいい飲みっぷりだ
○:ぷはぁ!くぅぅぅ…
ミ:さいっこう…
1口で半分ほど流し込んだ2人
おつまみが届くまでそれぞれの話が展開される
○:ミツキは今日なんの仕事だったの?
ミ:近くで撮影してた!新しいドラマ!
○:え?それ言っていいの?
ミ:…内緒だよ?
○:ダメなんじゃん笑
ミ:あぁ〜!今のなしぃ〜!
ミ:○○今何歳?
○:今年で24になる
ミ:え!?同い年だよ!
○:まじ!?何か年齢近そうだな〜とか思ってた笑
ミ:こりゃいっぱい飲むしかないな〜笑
○:なんで?笑
そんな話をしているうちに料理が届く
居酒屋特有の割と濃いめの味付けにお酒が進む
○:ゴクッゴクッ…ぷはぁ…くっそぉ…
ミ:飲みながらキレてる笑
○:もうなんにも上手くいかないぃ…
深いため息を吐いて肩を落とす○○
ミツキも気になって仕方ない
ミ:どうしたの?
○:いや、ミツキに言ってもわからないよ
ミ:いいから!このミツキちゃんが聞いてあげるよ?
対面だった席から隣に来たミツキ
自然と体が密着する
○:今日なんにも上手くいかなくてさ〜…
今日1日の出来事を全て話す○○
ミツキも相槌を打ちながら聞いている
○:もうあのくそ部長め〜…厳しすぎるじゃん…
ミ:分かるわ〜私達のマネージャーさんも厳しいのよね
○:ミツキたちは相手を思っての事でしょ?愛のムチじゃん…
ミ:それはそうだけどさ〜
○:あの部長気分屋だから機嫌悪いとすぐ当たってくるんだもん…
口をとんがらせて拗ねる○○
手には新しく来たお酒
○:今日は飲み潰れてやると思ったら
ミ:私に会っちゃったのね?
○:そうなんだよぉ〜!
机に項垂れる
今にも泣きそうになっている
ミ:あら〜笑
○:もう嫌だぁ…ウルウル
ミ:でもさ…
両手を○○の頬に持っていく
そしてそのまま顔を無理やり合わせる
かなりの至近距離、先程よりも近いだろう
○:はにゃして…
ミ:このお店に入らなかったら私に会えなかったでしょ?
キラキラした瞳に見つめられて動けない
緊張とか照れとかではない何かに縛られている
ミ:私は○○に会えてよかったよ
ミ:初対面でこんなに楽しく話せるなんて○○が初めて
○:そりぇはおしゃけのんだから
ミ:それもだけど!笑 グッ
さらに○○の頬を潰すミツキ
もはや両頬がくっついているんじゃないかと思う
ミ:ふふっ、変な顔笑
○:わりゃうにゃ!
ミ:可愛い〜笑
○:もうっ!きりゃいになるよ!
頬が潰され上手く話せないのが可愛いのか、ミツキは一向に離す気配がない
ミ:別にいいも〜ん!私が○○のこと追いかけるから
○:にげちゅじゅけましゅ〜
ミ:ダメだ…可愛すぎる笑
そこから10分は見つめあっていた
ようやく解放され頬が別の理由で真っ赤になった○○
指の跡がしっかり残っている
○:いって〜…
ミ:ごめんって笑
肩をバシバシ叩きながらレモンサワーを流し込む
○:飲み過ぎだよ?
ミ:ぷはぁ!大丈夫大丈夫!
○○も強い方とはいえかなり酔ってきている
ミツキのキャパを知らないのでなんとも言えないが○○より飲んでいるのは確かだ
ミ:あと、さっき言ったこと嘘じゃないから
○:さっきって?
ミ:自分でも不思議なくらい○○とは自然体でいれる
ミ:お酒の力かなって思ってたけど全然関係なかった
先程のキラキラした瞳が今はウルウルしている
○:ミツキ飲みすぎ
ミ:違うの…嬉しくて…グスッ
ミ:今日○○が酷い一日じゃなかったら私達会えなかったんでしょ?
○:そうなるね
ミ:今日1日○○が最悪な日で嬉しいの〜! ウワァーン
○:そこ喜ぶなよ!笑
腕で顔を覆うほど泣き始めるミツキ
店内のザワザワで周りにはバレていない
○:ちょっ!ミツキ!大丈夫!?
ミ:じづは私もぎょうぜんぜんうまぐいがなぐでぇ〜
泣きながら大きい声を出しているのでほぼリスニングは不可能
何となく聞き取るしかない
○:撮影?
ミ:うん…監督にイメージしてるものがちょっとズレてるって…
ミ:だがらみんなにだ*×А-&*#!?@…
○:なんて?笑
ミ:うぅぅ…グスッ
相当悔しかったのか大号泣のミツキ
○:大丈夫だって笑
ミ:もう毎日○○が隣にいないとやってけないぃ…
そう言って両手を広げたまま○○に抱きつこうとする
しかし○○に届くことはなくその手は止まる
ミ:ふぇ…
○:ダメだよ?そんな事したら
○:美月?なのかな…そういうのは大切な人としないと
○:若い女の子なんだから勘違いされちゃうよ?
ミ:○○…
○:また話し聞いてあげるから笑
ミ:同い年のくせして生意気…笑
ミツキは両手を引っ込め
目をゴシゴシと拭う
ミ:うんっ!ごめんね!
○:大丈夫!ミツキはミツキなりに頑張ってよ
ミ:はい!山下美月ちゃん頑張ります!
可愛い敬礼ポーズに恋に落ちそうになる
お酒で少し頬が赤くなっているのもまた可愛い
○:可愛い…
美:もっと言ってもいいんだよ?
小首を傾げてこちらを見つめてくる
普通の男性なら本気で好きになってしまうだろう
○:…てか今山下美月って言った?
美:…あ
あの日以降、○○は社内で1、2を争うほど優秀になったという
ストレスが無くなったのか笑顔も増えたらしい
ただ、毎日金曜日だけは決まって同じ居酒屋に行くらしい
○:こんにちは
店:あ!○○さん!
○:今日もいる?
店:いますよ!
店員に案内され、後ろを着いていく
店:それにしても○○さん変わりましたね
○:そう?笑
店:最初来た時は負のオーラしかなかったですもん!笑
席に到着する
既にその席には綺麗で可愛い先客がいた
店:お客様!相席よろしかったですか?
美:ふふっ、もちろん!
○:じゃあ今日も相席相手よろしくね?”ミツキ”笑
美:今日も飲むぞ〜!
今日も長い夜になりそうだ
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