スピリチュアル・エマージェンシー・ネットワーク。
最初に書いておきますが、ここでいうスピリチュアルとは、今の日本でいうところのスピリチュアル、スピとは違います。「精神の」「精神性の」「心の」とでもいった意味です。
吉福伸逸さんの重要な仕事のひとつが、スピリチュアル・エマージェンシー・ネットワーク(SEN)です。スピリチュアル・エマージェンシーについては、『TRANSPERSONAL VISION3 意識の臨界点』(吉福伸逸監修 雲母書房)に収録されている吉福さんとスタニスラフ・グロフ、クリスティーナ・グロフとの対話が参考になると思います。
スピリチュアル・エマージェンシー(精神性の危機)とは精神科医のグロフが提唱した概念で、誰にでも起こりうる精神的な危機のこと。この概念がもっと知られてほしいと私が思ったのは、あるできごとがきっかけでした。
2019年の3月、タイから帰国した飛行機のなかでふとスマホを見たら、「解脱失敗とその懺悔」というサンガさんのツイートが目に飛び込んできました。
瞑想についてのベストセラーを数多く執筆している僧侶の小池龍之介さんは、2018年9月に「解脱を到達」するための瞑想修行に入った。ところが旅の過程で自分の「弱さ」「辛さ」に直面し、自分のいまの精神的な境地が「自分が思っていたよりもずっと低い」ということがわかった、という。結果として修行の旅は中断。それだけでなく還俗(げんぞく=僧侶であることをやめる)をし、以後、瞑想の指導や執筆活動もしない、と。
このとき小池さんに起こったことを知って頭に浮かんだのは、「クンダリニーの覚醒」という言葉でした。瞑想修行の過程で、エネルギーが身体のなかを突き抜けて上昇するような感覚があり、身体が勝手に動いてしまうことがあるという。
実は先述のクリスティーナ・グロフが、何十年もこの症状に悩まされていたのです。グロフ夫妻はこうした症状をS E(スピリチュアル・エマージェンシー=精神性の危機)と名づけ、治療すべき病気、あるいは狂気といったものではなく、人間が成長する過程で誰にでも起こる現象として考えるようになりました。さらには、そうした状況にある人たちをケアするためのネットワーク、S E N(スピリチュアル・エマージェンシー・ネットワーク)を立ち上げました。
もちろん小池さんの症状が「クンダリニーの覚醒」とイコールなのかはわからないし、無責任なことはいえないけれど、事前に瞑想の危険性に対する知識、心構えがあれば、危機に陥ったときの対処法も違ってきたのではないでしょうか。このことに関してはいろいろな意見があるだろうけれど、ただひとつ言いたいのは、瞑想の効用を語るなら、同じくらいその危険性についてまず語るべきだということ。瞑想を指導する立場にある人は、まず瞑想の危険性について知っているべきだし、それをきちんと語るべきだと思います。
吉福さんは80年代からこのことに取り組んでいました。グロフの弟子でSENの担当でもあったリタ・ローエンを呼び、講演とワークショップを行ったこともあります。このときのことについてはボディ・サイコセラピストの小原仁さんが話してくれました。
小原さんは実は独自ルートでリタ・ローエンを日本に呼び、吉福さんよりも早くホロトロピック・ブレスワークをおこなっていた人です。
なおSEは当初はspiritual emergency(危機)の略でしたが、その後emergence(出現)の略とされるようになりました。日本におけるSENは2000年代になってTEN(Transitional Emergency Network)と改称し、現在は向後善之さんがあとをついています(1000から10になっちゃった、と向後さんは笑っていましたが)。
TENのフェイスブックページはこちらです。
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