オープン・ダイアローグとの類似について。
『仏に逢うては仏を殺せ 吉福伸逸とニューエイジの魂の旅』の第4部には、吉福さんのセッションについて、「カウンセラー向後善之は、フィンランドで生まれた「オープン・ダイアローグ」との類似を指摘する」という文章がでてきます。
「吉福さんが話していたのは、自分がどういう存在としてクライアントのそばにいるか。それだけなんだって。テクニックとかじゃなくて、そういうことを教わった気がします」「そうはいっても、ただ「そばにいる」だけで統合失調症がよくなるものだろうか?」という文章からの流れなので違和感はないと思いますが、実はこの部分には、事情があって削除してしまった伏線がありました。ある人の息子が突然はげしい言動をするようになり、統合失調症を疑われ、吉福さんを紹介され、セッションを受けたことがあったのです。
「さて、どんなことがあったのかな? ゆっくり話してくれる?」
セッションといっても特別な治療をするわけではない。吉福は相手が話すことに耳を傾け、ていねいに相槌を打ち、「こんなことはなかったかい?」と問いかけた。まるで相手の心の中で起きていることが、手に取るごとく見えているようだった。
途中、父親が会話に加わった。息子が話すあまりにも現実離れした内容に注釈を加えたくなっただ。吉福さんはそれを厳しく制した。
「あなたね、黙っていてくれないか。彼が話していることは妄想なんかじゃない。いまこの瞬間に起きている、リアルな体験なんだよ」
その一言で、息子の精神状態はみるみるうちによくなっていくのがわかった。吉福は言った。
「こういうことは、人間が成長する過程で誰にでも起こることなんだ。いずれ必ず着地するものだから心配することはないよ」
これは2000年代はじめの話なので、吉福さんがオープンダイアローグを知っていたとは思えません。心理学者カール・ロジャースが提唱した「積極的傾聴=Active Listening」というカウンセリングの手法がありますが、吉福さんの場合は、自分自身がとんでもない幻想・幻覚の世界を体験してきたからこそ、深いところでクライアントと分かり合うことができたのでしょう。
ただ結果的に、それがいま注目を集めているオープンダイアローグとそっくりなものになったというのが、面白いなあと思うのです。
オープンダイアローグについては、向後さんも執筆者のひとりになっている『マンガでやさしくわかるオープンダイアローグ』という本も出ています。ご参考までに。
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