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競馬で会社が倒産した話
「強いものが勝つんじゃない、勝ったものが強いのだ。」
フランツ・ベッケンバウアー
第10回西ドイツ大会(1974年)決勝で、優勝候補であるオランダと、“皇帝”フランツ・ベッケンバウアー率いる西ドイツの試合にて、優勝トロフィーを手にしたフランツ・ベッケンバウアーが語った言葉だ。
今から5年前、当時20歳だったおれは起業した。
サラリーマンをやるつもりはなかったし、そもそも社不のギャン中が毎朝ちゃんと起きれる訳がなかった。
早速、ブルジョワのおじいちゃんにマルチ講のような話術で資本金500万を引っ張り、法人を設立した。
問題はそこからだった。
「この500万をどうやって増やすか…」
田舎の老人しかいないパチ屋(通称:老人ホーム)でおれは初代シンフォギアのハンドルとともに頭を捻っていた。
時は流れ12月、いつものようにパチ屋に行くと、休憩所で競馬中継が流れていた。
「コレだ… 」
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この年の有馬記念は特別だった。
出走馬16頭中11頭がG1ウィナー、そこに凱旋門賞帰りのフィエールマンとキセキ、豪州G1馬リスグラシュー、菊花賞馬のワールドプレミア。
空前絶後の豪華メンバーだった。
そんな豪華メンバーを退け、単勝1.5倍の圧倒的人気に押されたのは、最強牝馬「アーモンドアイ」だった。
この馬がどれくらい強いかというと、デビュー戦の新馬2着、前々走の安田記念で3着こそあれど、デビュー10戦8勝, 2着1回, 3着1回と全てのレースで馬券に絡んでおり、海外G1も制覇した史上5頭目の牝馬三冠馬だ。
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「強いやつが勝つに決まってる」
いまおれが朝倉未来と100回ブレイキングダウンで勝負しても100回ボコられるのが自然の摂理だ。
おれは迷わずアーモンドアイに500万円Betした。
投票確定のボタンを押す瞬間、今は亡きおじいちゃんの顔が浮かんだが、既に頭の中は500万がいくらになるかしか考えていなかった。
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場末のパチ屋にファンファーレが鳴り響く。
休憩所に老人たちも集まり、みんなで運命の一戦を見届けた。
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気持ちは完全にカイジだった。
馬券はアーモンドアイが1着前提に適当に買った。
アーモンドアイが1着であれば大体当たるような買い目。
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データは残っていなかったが、残りの300万はアーモンドアイを軸に3連単と単勝を買ったと思う。
15時25分、弊社の夢を乗せた16頭がゲートを出た。
道中、アクシデントもなく、アーモンドアイは良い位置に付けていた。
勝負の第四コーナー、馬なりで出てきたアーモンドアイは前から4番目の絶好のポジション。
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「勝った…」
完全に勝ちパターンだった。
ここからムチが入り、鬼の末脚でゴール板を抜ける。
何度も見た光景。デジャブだった。
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残り250m、アーモンドアイは先頭に立った。
2,000,3,000万円という金が見えてきた。
「抜けろっっ」
声なき声を絞り出した次の瞬間
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「・・・ど、どこいった?」
アーモンドアイはおれの意識とともに画面の外へフェードアウトした。
結果は9着。
12月決算の弊社は売上0、特別損失500万で第1期目の決算を終えた。