「19歳の乱反射②」(山本 結)~【連載/逆光の乱反射vol.15】
『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。
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19歳、広島の女子大生、山本結が受けた『逆光』インパクト。後編は7月23日に尾道浄泉寺で行われた大友良英ライブの模様をレポートしてもらった。将来音楽雑誌の編集者になりたいという彼女はこの空間に何を感じたのだろう? そして彼女に映画『逆光』はどう映ったのか?
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7.23、尾道浄泉寺にて大友良英さんのコンサートが開かれた。お寺の大講堂で地元の人たちがドリンクやフードを出店したりしており、ライブが始まる前からとてもアットホームなコンサート会場となっていた。
第1部は須藤さんと渡辺さん、大友さんの3人のトーク。なぜ、大友さんがこの映画の音楽に関わることになったのか、どういうイメージで映画に音をつけたのか、などを3人で話してくれた。須藤さんは終始イキイキしていて、楽しそうだった。しかし楽しそうなだけでなくみんなの前に立ちながらも、あやさんと大友さんがしゃべっているときには聴衆と同じように「へぇ」と学んでいる気がした。トークショーはかっちりした感じかなと思っていたが、冗談あり、笑いあり、でも中身のある柔らかい内容で会場全体の場が和んだ。
トークショーの中で印象的だった言葉が2つあった。1つ目は大友さんが仰ってた「光に音をつけた」という言葉だ。大友さんは、音楽を任された時によく何かにターゲットを絞って音楽を作るそう。逆光では光に焦点を絞り制作したそうである。
2つ目は渡辺さんが仰っていた「高いところにいる人はそこから見える景色だけを言ってほしい」という言葉だ。映画を作る中であやさんは須藤さんに対し鬼のような態度をとっていたと言っていたが、それは須藤さんに期待しているからこそであり、高いところから見える景色をしっかりと伝えてくれている態度の表れだと私は感じ取った。この話を聞いた時、須藤さんは映画製作に関して最初から何事もそつなく完璧にこなせていた人だと思い込んでいたが、映画を作ることにおいて最初は今の私のようにやりたいことはあるがスキルは何もない状態から始まったのだと思って少し安心した。いや、でも逆に何もない状態から今の映画公開までやってきたのかと思うと恐ろしい人である。
そして、第二部の即興ライブが始まった。
陽気なおしゃべりしている大友さんとは人格が変わったように感じた。普段ライブハウスやホールなどで演奏を聴いたりするが、今回の会場はお寺だ。防音などなく外の音が全て中に入ってくる。ミュージシャンは音楽をする専用の空間の中でしか演奏しないイメージだが、どうもそれは違ったようだ。大友さんは、周りの電車の音、蝉の鳴き声、子供がドタドタと回廊を歩く音、全てを吸収し外部の音をも自分の奏でる音楽にまとめて観客に届けていた。完璧な空間ではないからこそできる、即興ライブを体感できた気がした。
今回のライブと映画逆光で感じた関連しているところは、受け手それぞれが三者三様の視点や意見を持てるというところだ。映画逆光も各々が気になる箇所は全く違い、誰目線で見るかによって映画自体の感想は違ってくる。このライブも、完璧な空間で聞かないことがよかったと感じる人、そうでない人、みんなで最後に歌った「その街のこども」が印象に残った人など、一つの感想に縛られずあの会場にいた人それぞれ別の感想が生まれていたであろう。映画逆光とその関連イベントはどれも決まった感想の答えはなく、受け手自身で答えを見つけ考えを創造していく――そんなものが多いように思う。
個人的に映画逆光がほかの映画と違って魅力的なのは、映画のつくり自体を身近に感じれるところだと思う。CG一切なしで、劇中に出てくる建物も風景もどこか撮影場所があって、必ず私たちが巡ることができる。
また、映画を作った監督や脚本家、出演者、衣装部、写真家、そしてこの日のライブで劇中の音楽を手掛けた大友さん、映画を作成した側の人に直接お会いでき、映画を見た感想や疑問に監督も本気で耳を傾けてくれ、そこに監督目線から話をしてくれる。ここまで受け手が映画の世界観にのめりこめるような作品は日本で初めてではないだろうか。
私はこれまで自分の夢など自分ひとりの力でつかみ取っていくものだと思っていた。しかしそれは間違いで、夢をかなえるためにはたくさんの協力者が必要で、その協力者を募るには自分の熱意と行動が大切だと須藤さんを通して体感できた。この映画も須藤さんの一つの夢であって、様々な試行錯誤を経てやっと上映までたどり着いたということを知れた。
須藤さんにお会いして1ヵ月経とうとしているが、具体的にどうやって夢をかなえるかのプロセスを学べ、たくさん考えることがあり、そして悩み、毎日がとても忙しい。こんなにも1ヵ月があっという間に感じたことは初めてだった。
やっと、夢をかなえるスタート地点に立てた気がした大学2年の夏だった。(この項、おわり)
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