「広島総括①」(須藤蓮&渡辺あや)~【連載/逆光の乱反射 vol.23】
『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。
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まじで帰るんだなって感じですね……前に尾道から東京に戻ったとき、東京に着いたら音がうるさすぎてビックリしたんです。今も全然帰りたくないけど、不思議と寂しい気持ちもないんです。(須藤)
そうだね、終わった気がしないよね。まだまだ。(渡辺)
8月31日夕方、JR広島駅前すぐのエディオン蔦屋家電の横にあるカフェ。この後に出る新幹線で須藤は帰京する。
2ヶ月以上に及んだ映画『逆光』の広島配給プロジェクトの最終日――須藤と渡辺はここ数日かけて今回お世話になった店舗や人々へのお礼参りを行っていた。広島だけでも、キックオフトークショーを行ったLECT蔦屋書店、ジャパニーズヌーヴェルヴァーグ展を行ったref.、『逆光』ブレンドを一緒に作ったマウントコーヒー、写真集『ONOMICHI』の展示をしたリーダンディート、「Dialogue」を行ったスモールハウスデザインラボ、もちろん上映館である横川シネマ……さらに尾道は尾道で各所を回る。彼らは思い出の場所に足を運び、改めて感謝を伝え、別れを惜しんだ。メールや電話で済ますのではない“直接会いに行って直接話す”ということ。彼らは最後まで『逆光』配給のコンセプトを貫こうとした。
映画を東京から配給するのではなく、地方から配給するということ。しかも自主映画で芸術性の高いアートムービーを――彼らの無謀ともいえる冒険ははたしてどんな結末を迎えたのか? 最後に検証したいと思った。
ここまで尾道・広島・呉・福山、そして京都の出町座で公開しましたけど、トータルで2,000人の方が来てくださいました。そのうち横川シネマとシネマ尾道だけで約1,500人。数字の上ではまあまあ大成功と言えると思います。『ワンダーウォール』は40館開けましたけど、その6割はすでに超えてるんですから。
自主映画は1万人入れば大ヒットと言われる世界。そう考えると東京・大阪を使わずして20%達成ってめちゃめちゃ可能性があると思うんです。だって広島的な場所があと4ヶ所あれば、東京なしで1万人集客できる計算になるんです。そう考えると、たとえば1年間使って映画を撮って、1年間各地を巡回しながら公開するというやり方も夢ではないのかな、と。(須藤)
私はこれまで地方の数字とか気にしてなくて。「1,000人入ればすごい」という現場の声を聞いてショックだったんです。実際広島に足を運ぶと、これだけ豊かな映画文化があるのにまったくポテンシャルを掘り起こせていない、まだまだできるという感覚がすごくあって。で、今回の配給活動を通してそれに反応してくださる方がこれだけいて、すごく楽しい体験をさせてもらって。今はこれを今後どのように伝えていくか、どのように細胞分裂させていくかが自分の課題だと思ってます。(渡辺
集客、約2,000人。7月30日まで行われたクラウドファンディングでは300万円という目標を大きく上回り、552万9,020円という金額を集めた。ここに販売好調なパンフレットや人気イラストレーター・たなかみさきとのコラボグッズの売上などを加えれば、収益的には上々と言っていい。
改めて書くが、今回須藤が実践したのは「映画を上映する街に住み、その街の人や来てくれるお客さんと対話しながら配給活動を行う」という前代未聞のやり方だった。最初に出会ったとき「上映中は広島に住みます!」と豪語していて若者らしい大言壮語だと思ったが、終わってみれば彼はそれを実践していた。6月23日の広島入り以降、京都等への行き来はあったものの一度も自宅のある東京には戻らず、2ヶ月以上を広島か尾道ですごしたのだ。しかもそのほとんどは支援者宅やゲストハウスで暮らし、ホテルに泊まったのも1日程度。2ヶ月というのは、ちょっとした短期留学の長さである。
「住み込んで宣伝します!」って若い勢いのある子が言いそうなことじゃないですか。私も「本当かよ?」って思ったけど、本当にやったんだね。(渡辺)
生活拠点をずらしただけだから、そんなに負荷はなかったですよ。でもこうしたノマドなやり方ができる時代だからこそ、逆に対面の重要性を痛感したところはありました。今回やったイベントも東京からオンラインで打ち合わせしてたら、何ひとつ実現しなかったと思うんです。舞台挨拶も対面じゃなきゃダメじゃん、って思ったし。同じ話を同じ熱量でしても、対面とリモートでは伝わり方が全然違うんじゃないかな?(須藤)
監督が2ヶ月近く映画公開の地に住んで配給・宣伝活動をした――これは日本の映画興行の形として画期的なことだろう。通常1~2日の滞在で舞台挨拶や取材をやっつけるのが関の山という現状に対し(それすら昨今はリモートで処理されがちだ)、じっくり腰を据えて地元の人と向き合い、作品を知ってもらうという方法論。ちなみに渡辺も『逆光』プロジェクト開始以降、住まいのある島根から広島まで愛車のハンドルを握り30回近く行き来した。
今回の配給活動は「僕のやり方をマネしたくなるようなやり方でやりたい」って思ってたんです。「それは渡辺あやと一緒だからできることでしょ?」ってことをなるべく避けたいというか。そうしたやり方を積み上げたことで、これを東京に持って行ったとき絶対若いクリエイターは刺激を受けるはずだと思うんです。だって僕がやったことは誰でもできることだから。地元のアーティストとつながったり、地元で面白い店を回って一軒一軒口説いていって、仲良くなれた方と何かやったり。それってパッションがあれば誰でもできることですから。(須藤)
実際に会いにいくこと、顔を合わせて話すこと、人と人として認め合える関係性をひとつひとつ着実に作ること――改めてこの『逆光』という映画は、SNSも含め効率化・バーチャル化が進む人間関係の直接性を見直すルネッサンスだったのかもしれないと思わされる。(つづく)
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