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「広島キックオフ」(須藤蓮×渡辺あやトークショー@広島LECT蔦屋書店 2021.7.10)~【連載/逆光の乱反射vol.6】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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7月10日、広島LECT内にあるT-SITE SQUARE GALLERYで「広島 蔦屋書店」主催「映画『逆光』公開記念 キックオフトークイベント~主演・監督 須藤蓮 × 企画・脚本 渡辺あや~」が行われた。このイベントは“キックオフ”と銘打たれているように、これからはじまる尾道~広島~福山での映画『逆光』公開にまつわる動きのオープニングを飾るものである。

開演前の楽屋に顔を出すと、須藤も渡辺も珍しく緊張した顔をしていた。それはトークイベントに対するプレッシャーに加え、いよいよ一般公開が間近に迫ってきたことに対する武者震いのような気持ちもあったのだろう。

このイベントに先駆けて、蔦屋書店では7月3日から大々的な『逆光』フェアが展開されていた。内容はこの企画のために須藤と渡辺が選書した棚の設置、映画の場面写真をちりばめたパネル展示、そして本作に対する30人程度のコメント集など立体的なものである。驚くのは、これらがこのフェアのためだけに制作されたオリジナル企画だということだ。

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選書に関しては須藤と渡辺が「自身を作った5冊」「『逆光』のための5冊」を挙げ、さらに蔦屋書店スタッフが『逆光』に関連する書籍約20冊をセレクトした。その中には三島由紀夫、谷崎潤一郎、志賀直哉といった文豪の作品から、レイチェル・L・カーソン、ムーミン、ヒロシマ、京大吉田寮、メンズウェア、ファーブル……といったキーワードまで並び、表紙を見ているだけで飽きさせない。

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さらにコメントパネルには『逆光』出演者はもちろん、大友良英、岩崎大整、井上剛……といった名前まで入っている。率直に言って、いち書店が展開するフェアとしてはチカラが入りすぎているし、このフェアを企画したスタッフの方々のコメントも実に熱い。まるで『逆光』の熱が書店に飛び火して、燃え上がったようである。

映画を見ている間、その世界に完全に引き込まれてしまった。多くを語らない絶妙なセリフ、それに対して映像と音楽は多くのことを語っていた。まさに、文章の行間を読み、その語られない空白にこそ多くを語らせる純文学作品と同じような構造をそこに感じた。粘りつくような湿度感のある画面に配された光と陰は淫靡さを醸し出す。ああ、これこそが文学であり映画なのだ。(広島 蔦屋書店 文学コンシェルジュ 江藤宏樹)
広島(尾道)発映画「逆光」の応援に携わることができてとても光栄です。本当にこの無邪気な若者が作ったのかと思う程に優艶な作品です。広島中の人にぜひご覧になることをお勧めします。(広島  蔦屋書店 食コンシェルジュ 河賀由記子)
映画でしか体験できない瞬間が立ち顕れる。目を、そして、耳をこらしてスクリーンと向き合ってほしい。「尾道」を撮るということに軽やかに向き合った須藤蓮監督の傑作。瀬戸内海にも波は立つ!(広島 蔦屋書店 店長 丑番眞二)

こうした展示に加え、トークショー当日には須藤が「一日書店員」を務めるという一風変わった企画も実現した。実際、須藤は蔦屋書店の制服を着て掃除などの手伝いをしたが、このあたりはもはや宣伝効果うんぬんというより、「蔦屋側も『逆光』側もなにやら異様な盛り上がりを見せている……」という双方のテンションの爆上がり具合に注目した方がよさそうだ。

さらにイベント会場に着くと、渡辺を迎えるため彼女の愛する「ミナ・ペルホネン」の椅子を用意、イベント終了時には来場者に選書やコメントの内容をまとめた「逆光ZINE」というオリジナル小冊子までプレゼント――これ以上ない愛と心遣いを山盛りにして、広島蔦屋はこのイベントを成功に導いたのだった。

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トークは17:00にスタートした。とにかく『逆光』に関する最初の有料イベントということで2人が気にしていたのは、どれくらいの人が訪れてくれるかということだった。最終的には会場に来た方が40人強、オンラインでの参加が40人弱ということで、両方合わせて80人。蔦屋主催のイベントとしては上々の集客ということで、2人はホッと胸をなでおろしていた。

トークは『逆光』の広島での宣伝活動を先頭に立って牽引するフリーパーソナリティ・兼永みのりの司会で行われた。映画の予告編が流れた後に2人が登場。まず2人が出会うきっかけとなったドラマ『ワンダーウォール』の話からスタートする。

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最初は緊張した面持ちの渡辺だったが、須藤の第一印象を聞かれた際、「そういえば10年くらい前、アバター(分身)のような存在がほしいと思っていた」と忘れていた記憶がよみがえる。島根県に暮らす渡辺は、田舎にいると思うように身動きがとれないので、自分の代わりに中央で動いてくれる分身のような誰かを探していたという。そんな中で目を付けたのが須藤。「10年越しの下心で食らいついた。思った通りよく動く(笑)」と、まさかの「須藤蓮=渡辺あやのアバター」説を披露。「これを読んでおきなさい」と内田樹7冊セットを送り付けてくるなど、柔らかな風貌とは裏腹のスパルタぶりに会場からは笑いがもれる。

一方、それに負けじと須藤も「この人やべーな、まともな人間のすることじゃない」と思わされたという「渡辺あや“鬼”伝説」を暴露。須藤が作品を送ったところ「素人の遊びに付き合ってるヒマはない」と酷評を通り越して一刀両断されたエピソードを話しても、渡辺は「覚えてない……」と馬の耳に念仏なのが再び来場者の笑いを誘う。この2人のトーク、お互い毒舌が飛び交うのだが、それがむしろ互いへの信頼と親密さを感じさせ、ほのぼのした気分にさせられるのが不思議なところだ。

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トークでひときわ白熱したのが、今回コメントを寄せてくださった方々に触れたところだった。渡辺は大友良英が映画祭授賞式に寄せたコメントに「ブン殴られたような衝撃を受けた」という。そして「上にいる人は下を見ないでほしい。やさしいことを言わないでほしい。上を見て思うことを率直に言ってほしい」と語る。ものづくりに対する気概、そして先行する人が後ろから来る若人にどんな態度で接するべきか、虚飾のない言葉にハッとさせられる。

そして須藤はもっとも尊敬する日本の監督として、『その街のこども』『いだてん』『あまちゃん』らを撮ったNHKの井上剛を挙げた。同じ監督として見た井上のすごさ、『いだてん』出演時に感じた役者から見た井上演出のすごさの話に惹き込まれる。

トークは撮影現場の様子、今の映画業界に対する想い、広島での配給活動の理由……など『逆光』に関する情報をくまなく網羅して進んでいった。来場者は話のポイントで深くうなずいたりするなど、高い関心があることが感じられる。ガラス張りの会場の向こうでは、店内を歩く多くの人たちが足を止め、興味深そうに中の様子をうかがっていた。

その後、来場者からは「(須藤に対し)渡辺の脚本で『これは撮れない』と思ったところはあったか?」 (渡辺に対し)須藤の撮ったシーンの中で驚かされたものはあったか?」「広島・尾道以降の宣伝・配給活動をどう考えているか?」「俳優・中崎敏の魅力を一言で」「舞台を1970年代にした理由は?」……など、さまざまな質問が寄せられた。

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イベントは2時間弱も続き、その後は公式パンフレット初販売会&サイン会という形で、コロナ禍の注意をした上で短い交流が図られた。すべてが終わったのは20時近くだったが、2人は自分たちの作った自主映画に興味を持ってくれた方々と初めて対面し、彼らと交流を持てたことに終始嬉しそうな様子だった。自分たちが手作りした作品を、自分たちで直接届ける、それに反応してくれた人たちと直接コミュニケーションを結ぶ――須藤が目指す「もっとも純粋な形で最後まで映画を届ける」という行為のひとつがこのイベントだったのだろう。蔦屋側との折衝も含め、自分たちが直接出向いてふれあうことで広がる歓び、まさに“交歓”の乱反射がここでは起こっていた。

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イベント中、須藤も話していたが、『逆光』プロデューサーは尾道と広島、2ヶ所の公開で500人動員できれば成功と言われる中、1,000人の集客を目指しているという。しかし須藤は「目標はさらにその倍、2,000人!」といつものようにビッグマウスで吠える。ちなみに『ワンダーウォール』は尾道・広島で170人。コロナ禍直撃という不幸はあったにせよ、はたして前作の10倍以上の集客など可能なのだろうか?

須藤は自信を崩さない。通常は200枚程度しか配らないチラシを両地で5,000枚刷り、ほぼすべて撒き終えたという。チラシの投下量は20倍近くだが、それはそのまま効力を発揮するのか?

イベント終了後の2人はキックオフの余韻を噛みしめ、幸せな満足感に包まれていた。尾道公開まであと1週間、広島まで12日――これまで仕込んだ告知や準備ははたしてどこまで届いているのか?

いよいよ『逆光』の本番がスタートした。

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(*写真撮影のためマスクを一時外しております)

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映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。


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