「脚本家の頭の中①」(渡辺あや①)【連載/逆光の乱反射vol.8】
『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。
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映画『逆光』を巡る物語の見どころは、なんといっても監督・主演を務める須藤蓮と脚本の渡辺あや、この2人のキャラクターの妙にある。かたやヤンチャざかりの24歳と、かたや日本を代表する脚本家。一見デコボコに見える2人が同じ志の下、タッグを組んで、バディのようになっている。この組み合わせ、このキャラ設定が「現実は映画より奇なり」で『逆光』の意味に深い広がりを与えている。
この2人がW主演を張っているということは、つまり本作には2つの視点があるということである。それはオトナの視点と20代の視点であり、島根県から現代日本を見据える視点(渡辺は現在も島根在住)と東京という息苦しさの渦中にいる若者の視点である。個人的には映画の内容そのものよりも、このダブル・ファンタジーのハーモニーの方が気になって仕方なかった。
だって、どうしてあの渡辺あやが、まだ一本も映画を撮ったことのないドシロウトのためにオリジナル脚本を書きおろしたのか? そして島根から尾道・広島まで自ら運転して何度も足を運び、嬉々としてドブ板の宣伝活動に参加しているのか? オフィシャルのインスタグラムを動かしているのも渡辺自身だ。考えてみれば、まったく意味がワカンナイ話じゃないか!
ということで、今回は渡辺あやに話を聞いた。彼女のプロフィール等に関しては、以前書いたこちらのnoteを参考にしてほしい。
まずは『逆光』に至るまでの渡辺あやの心の動きを追いかける。プロの脚本家として生きてきた彼女には、ずっとフラストレーションがあったという。
プロとして仕事をしてると、企画って逆算的に組み立てられることが多いんです。たとえば最初に番組や作品の枠が決まってて「そこにふさわしい企画は何か?」「いまどういう人たちがどういう作品を見たがってるのか?」ってところから考える。それは確かにプロとしては正しい順番なんですけど、作り手側からすると往々にして「ずいぶん逆からやってるなぁ」という実感があって。まず完成形の条件が先にあって、それに適合するものを自分の中から探していく。つまり、求められてるものと自分のやりたいことの最大公約数を常に考えなければいけないわけです。
私はそれに対して「その順番を逆にしてみたらどうだろう?」と思ってて。「こういうものがほしい」というイメージに合わせて作るのではなく、作り手が「これを作りたい」と思ったものを作る。それが一番人の心に届いたり、よいものができたり、創作という意味では一番いい結果を生むんじゃないか?……ということを思いながらも、当然ながらそんな子供のような理屈など誰も聞いてくれるわけがなく(笑)。ずっとあきらめてたんです。
でも去年緊急事態宣言が出て、すべての仕事が吹っ飛んで。「どうすればいいんだろう?」って一時は気持ちも落ち込んだんですけど、しばらくすると「じゃあ一番元気が出ることをやってみよう!」って想いが湧いてきたんです。作り手にしてみれば、自分たちが本当に作りたいものを作ることが一番元気になるんですよね。それで蓮くんと「自主映画作ろうよ」って言いはじめて。そしたら持続化給付金が下りることもわかって一緒にやることにしたんです。
だから今回の『逆光』に勝算はまったくなくて、そもそも勝算という発想自体がないというか。ただ楽しいし、自分たちが元気が出るからやっただけなんだけど、それに輪をかけて楽しいのが、この作品に関わってくれるみんなが楽しそうなことなんです。映画を作る過程にしても配給宣伝にしても、楽しいの輪がどんどん広がって行くのが楽しいし、私はそれは正しいことだと思ってて。自分にとっての楽しいことが自分以外の人にとっても楽しいことになっている、今はそれをやれてる充実感をすごく感じますね。
プロの脚本家というシゴトの不自由さに渡辺は息苦しさを感じていた。そして「結果先にありき」ですべてが粛々と進められていくものづくりのやり方に疑問を抱いていた。はたして、それが本当に作品にとってよいことか? 映画にとって最適の方法か?
今って映画業界全体があまりにも経済至上主義で、合理性のことしか考えられなくなってるじゃないですか。それは間違いなく自分たちの首を絞めるし、業界全体が痩せていくと頭ではわかっていても誰も止められない。だってそれを会議で言っても、会議は理屈で動くんです。理屈という部分では数字が一番強いから、数字以外は切り捨てられていくんです。
だけど私はひとりひとりが「楽しい!」と思ったときに出てくるパワーって、数値化されないけど非常に重要な要素だと思ってて。たとえば仕事があるとして、「早く終わってビールが飲みたい」って思うじゃないですか。でも仕事が楽しければビールを飲みながらでも仕事は続けられるんです。なるべく仕事時間を減らそうと効率性を追求するのは、単純にその仕事がつまらないからですよ。そう考えると、企画を最初に立ち上げる脚本家やプロデューサー、あるいは監督の一番大事な仕事って「この仕事は楽しい」って思わせてあげることだと思うんです。まずはみんなが「それやりたい!」って思える企画を立ち上げられるかどうかが、一番大事なことだと思います。
『逆光』立ち上げの理由のひとつは、渡辺の映画人としての業界に対する警鐘だった。「作りたい」と「稼ぎたい」のバランスの再定義。しかし渡辺は過去にも一度自主映画を制作した経験があるという。実は『逆光』は、彼女にとって初めての挑戦ではなかったのだ。(つづく)
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