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「監督以前②」(須藤蓮③)~【連載/逆光の乱反射vol.17】


『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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中学校に金髪ピアスで行くことに抵抗はなかった。学校は校則のない自由な校風だったので特に注意はされなかったが、自分がめちゃくちゃ浮いていることは否めなかった。「それ似合わないよ」と普通に言われたときには憮然とした。

ただ、いま考えれば金髪ピアスは自分なりの必死の抵抗だったのだと思う。それくらい当時の僕には何もなかった。勉強はできない。運動神経がいいわけではない。その頃は見た目もニキビ面にメガネで、ルックスがいいわけでもない。しかもそこは進学校の男子校だ。僕はクラスの最底辺に沈み、自分を誇れるアイデンティティなど何ひとつ見つからない状態でもがいていた。

そんな中、地元の中学に進んでヤンキーになった奴らから「髪染めてカッコよくしようぜ」と言われた。自分を変えたくてその気になった。都会の武蔵中学ではそれがどれほどダサいかも気付かず、僕はピアス10個をジャラジャラ付けて学校に通うようになった。

いま思うとバカみたいだが、体育の授業でサッカーをやるときもピアスはジャラジャラのままだった。さすがに教師から「外せ」と怒られたが、僕は食って掛かった。

「これはオレのアイデンティティだから外したくないんです!」

僕はどうしてそこまでピアスにこだわったのだろう? 他の人がしていないピアスをしている自分……逆に言えばそんなつまらないことにすがるしかないほど、当時の僕は自分自身を認めることに苦しんでいた。

須藤蓮 海

この頃は中学の同級生よりも、地元の仲間とつるむことの方が多かった。武蔵は都会なのでヤンキーなどいない。一方、地元に残った友達はヤンキー一直線で、多摩川や川崎をバイクで走っていた。僕自身は心底ヤンキーに染まれるわけではなかったが、彼らのバイクの後ろに乗ってそれなりにイキガっていた。ケンカがあれば覗きに行くものの、参戦するほどの度胸はなかった。

学校に行かない時期もあったが、嫌いじゃないので基本的には通っていた。ただし授業中にゲームをやったり、それに飽きたら授業を抜け出したりと行儀のいい生徒ではなかった。学校は10段階評価で5点台が退学ギリギリのライン。当時の僕は5.5くらい。本当にやばい状態だった。

その5点台ギリギリの奴らは「レベル・ファイブ」と呼ばれ、まわりからはクズ溜まりと思われていたし、自分たちでもそう思っていた。学校にはそういう落ちこぼれ仲間が2~3人いて、そいつらとつるんでいるときは楽しかったが、それでも基本は最低だった。


最低の空気が多少変化の兆しを見せはじめたのは高1の頃だろうか。

僕は地元でもなく、学校関係でもなく、新たな外とのつながりを求めて都内のライブハウスに足を運ぶようになった。同時にその頃からファッションに目覚め、自分の見た目を磨くようになった。僕は自分のことを誰も知らない場所に行き、「オシャレな自分」として振る舞うことで活路を切り開こうとした。

ちょうどその頃は自分の中で表現者への憧れが膨らんだ時期だった。ステージに立って歌っている人、楽器を演奏している人……そういう人たちのことが羨ましかった。だが、自分がそうした人間になるのはムリだろうと諦めていた。妄想でステージに立つ自分を想像してギターを練習したものの一切うまくならない。結局は友達とカラオケに行き、何も変わらない自分に苛つく日々。

だからだろうか、僕は表現者の周辺に顔を出しながらも自らは表現に手を染めず、「そういう場にいる、オシャレでカッコいいヤツ」というポジションへと流れていった。当時はライブハウスで「カッコいいね」と声をかけられることも増え、高2でサロンモデルをやったり、次第にルックスやファッションが自分の武器になることに気付いた時期だった。学校ではクズ溜まりかもしれないが、同級生たちが知らないライブハウスコミュニティでは一目置かれ、いろんな学校の生徒に認知されている――僕は自分の承認欲求を外に求め、そこにアイデンティティを見出していた。

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しかしだからといって心が完全に晴れたわけではなかった。

オシャレをして外の世界で多少チヤホヤされても、学校での居場所はいぜんとして最底辺だった。期末テストの時期はいつも断頭台にのぼらされるような気分だった。どうしようもない無力感、劣等感、敗北感、屈辱感……僕は学力という戦いの場からずっと逃げ回っていたが、その世界を捨て去るほどの強さもなかった。

逃げ回っているという意味ではプライベートも同じだった。当時、僕はピアスに金髪の遊び人風。誰がどう見ても女たらしで、彼女もいたが、しかし実際は童貞だった。

僕は常に虚勢を張り、周囲にウソをつきながら生きていた。

外ではイキガってカッコつけているものの、一皮むけば童貞で、勉強にまったくついていけず、自分にまったく自信がない……そんな無力で無様な十代が、無益に過ぎていくだけだった。(つづく)

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