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「広島総括②」(須藤蓮&渡辺あや)~【連載/逆光の乱反射 最終回】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。
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昨日は尾道でお世話になった方々に挨拶してたんですけど、ひっきりなしに人が訪れるんです。で、最後は蓮くんを中心に若い人たちがみんなで夜の尾道水道に飛び込んで(笑)。今年の夏、彼らにそういう青春があったのがすごくよかったなと思うんです。尾道の方が「今年の夏に『逆光』があってよかった。これがなかったら相当寂しい夏だった」って言ってくださったのが印象的で。(渡辺)

くしくもこの日は8月31日、夏の終わり。須藤が東京に帰る本日をもって映画『逆光』の広島配給活動はひとまず終了となる。関係者たちにとって今年の夏は『逆光』の夏だったと言えるし、映画の撮影が去年の夏に行われ、映画自体がひと夏の物語であることも考えれば、『逆光』はまさに夏の象徴だった。

私は『ワンダーウォール』のオーディションで5人の男の子を選んだんですけど、みんな志を持ったいい役者さんで。だけど彼らの未来の活躍に全然期待が持てなかったんです。それは私が映画業界に希望を感じられないというか、「こんな若い子たちが一生を賭けていい業界じゃない」って感じてたから「早くやめたほうがいいよ!」って思ってて。業界人のひとりとしてそう思うのは悔しいし残念だけど、そんな中で「彼ら自身にこの状況をひっくり返してもらうしかない」とも強く思ってたんです。今回はその希望が見えたというか。関わったみんなも自分でわかるくらい成長したんじゃないかな? この前、永長くんも「俺、自己肯定感がめちゃ上がってるんです」って言ってて。今はみんな「この成長した自分でこれから何ができるんだろう?」ってところに気持ちが向いていると思います。(渡辺)
僕も本当の意味でやりたいことには到達してないけど、そこに行くために必要なことが正しくできてる実感があるから今は焦りはありません。この先には「日本の美意識を世界に通用させる」という目標も見えてて。だから本当の意味で尾道や広島の人に『逆光』に関わってよかったって思ってもらうには『逆光』だけじゃ足りないと思うんです。次の作品、また次の作品……って何十本も撮って成長した姿を見せることで、初めてそれを証明できるんじゃないかな。(須藤)

暑く激しい夏は終わり、季節は秋に向かいつつある。青年たちの若竹のような成長に目を細めていた渡辺に、須藤の変化はどう映ったのだろう?

日に日に本来の自分に近づいていったというか。彼、昔はもっと話がつまらなかったんです(笑)。昔のインタビュー記事を読むと「こんな話、100回くらい読んだことがある」みたいなことしかしゃべってなくて。たぶんそれは“駆け出しの役者”という立場の自分で話してたんだけど、今は“誰も歩いてない道を歩く若者”という立場から言葉を発せるようになってきて。そこに今回の経験が加わったというか。人って自分の経験してないことを話すのは怖いし、それは自分の言葉じゃないから説得力も弱いけど、彼は今回いろいろ体験したことで話せる範囲が広がったと思うんです。そう考えると若い子が話せるようになるには、体験が一番なのかもしれません。(渡辺)

これから須藤は東京に帰り、新作『ブルーロンド』の撮影と『逆光』東京公開の準備に入る。最後に、広島に暮らす者として彼らに広島という街がどう映ったのか聞いてみた。『逆光』の配給活動において広島だからこそできた部分、広島だからこそスパークした理由というものがもしあれば、それは何だったのだろう?

広島の魅力は圧倒的な陽性のエネルギーですね。ポジティブ、元気、明るい。『ワンダーウォール』の舞台だった京都は洗練されてるけど、広島は素朴でプリミティブ、おおらかさがあるんです。東京みたいにくたびれてなくて、『もっと楽しいことをしたい!』っていう元気が街にいっぱいある気がします。(渡辺)
いい意味でおせっかい、世話好き。愛情深さがあって、一回応援したらとことん応援してくれる。楽しいことにウソつかない。色で言うと黄色かな? 血の気が多いというか、性欲に近いエネルギッシュさを感じるんです(笑)。今回のイベントは「広島だからこそこれをやろう」と考えてたわけじゃないけど、広島の人たちとやったことで結果的に広島でしかやれないことになった感じがします。(須藤)

広島がポジティブで明るくて世話好きという感想には、「外から見たらそう見えるのか?」と思う程度だったが、新幹線ホームまで見送りに来た広島女子たちが「須藤蓮監督」「行ってらっしゃい」「また広島に帰ってきて!! チーム逆光一同」という手作り横断幕を作成してきたのを見たときには「そうかもしれない」と思わされるものがあった。この街に流れている若干テンション高めの文化系血潮が噴き出したのが、2021年の夏だったのだろう。

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新幹線がなかなか出発しなくて、ドアの前の須藤が困ったように手を振り続けていたのが今年の夏の最後の記憶になる。

これから東京で、大阪で、名古屋で、京都で、仙台で、札幌で、福岡で、その他いろいろな町のいろいろな映画館で『逆光』を観る方々へ――この連載が、最初の公開地である広島でこんなことが起こっていたという2021年夏の参考記録になれば幸いである。逆光を受けての乱反射に長期間のお付き合い、ありがとうございました。今後もあちこちの街で、多様で思いがけない光の拡散が生まれますように!(完)

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