相手と“会話”せずにインタビューする方法
「〈インタビュー〉は相手と〈会話〉することではない」。もしもインタビューの技術をもっと高めたいと思っているなら、この真実を知っておいてほしい。
これから述べることは、一介のライターによる考えかたのひとつにすぎない。だが、実際に成果を挙げている方法でもある。ぜひ参考にしていただきたい。
インタビューで会話するのは本末転倒
〈インタビュー〉と〈会話〉は異なる。そう考えたほうがよいのはなぜか? その理由を述べていこう。
[理由1]会話を盛りあげることに注力するとうまくいかない
インタビューの初心者がついやってしまいがちなミスは、インタビュイー(インタビューを受ける相手)との会話を盛りあげようとがんばってしまうことだ。
「会話を盛りあげる」とは、お互いがコトバをやりとりし、ときに笑いあい、仲を深めていくこと。初心者はインタビューをそうすべき場と考えて、本番に臨んでしまいがちだ。
ここでひとつお断りするなら、「会話を盛りあげてはいけない」と主張しているのではない。盛りあがらないより、盛りあがったほうが良いに決まっている。
重要なのは「優先順位をまちがえない」こと。インタビューの目的は、価値のあるコンテンツをつくることにある。「現場で会話は盛りあがったけど、できあがった記事はまったくおもしろくない」となれば本末転倒だ。
[理由2]「話し上手」と自負していると失敗を招く
インタビューを「会話をすること」と考えると、次のような勘違いをしがちだ。
「オレはコミュニケーションには自信がある。営業マンとして口八丁で何千万円もの売り上げを達成してきた。インタビューもチョロいもんさ」。そんなふうに、“話し上手”であると自負してインタビューをしてしまう。だが、その能力はコンテンツの質を上げることに必ずしもつながらない。
もちろん、そのスキルがインタビューの邪魔になるわけではない。むしろ、おおいに活かせるだろう。問題は、「自分は話し上手だから」と慢心してしまうことにある。営業トークのように、みずからがペラペラとしゃべる。すると、相手から話を引き出せない。そんな愚を犯しかねない、ということだ。
これを逆に考えると、「自分は口下手だから」とインタビューに尻込みする必要もないわけだ。かえって「口下手」を自認する人ほどインタビューは成功しやすくなる。
[理由3]プライベートに踏み込み関係が悪化する場合がある
多くの場合、インタビュイーとは初対面だ。自分のプライベートについて話しながら、相手の個人的な事柄を聴き出す。〈会話〉を盛りあげようと意識するあまり、そんな“勇み足”をしてしまう可能性がある。
たしかに、相手と打ちとけた関係をつくるために“自己開示”するのは有効な手段だ。長期にわたって付きあう相手なら、それでもいいのかもしれない。しかし、インタビューは往々にして一期一会だ。“良い関係”を築こうと前のめりになって、いわゆる“地雷”を踏んでしまいかねない。
「奥さんはどう思ってます?」と聴いた相手が既婚者とはかぎらない。「毎日、食事をつくるのは大変でしょう?」と尋ねた相手がふだん家事をしている保証はない。相手の気分を害したら、それこそ関係が悪化してしまう。
これらは必ずしもインタビューの場だけの問題ではないが、力を入れるべきところをとりちがえると、とんだ災難を招きかねないのだ。
インタビューは「材」を「取」ることに注力する
では、インタビューの場において、なにをもっとも優先すべきか? 言うまでもなく「価値のあるコンテンツをつくる」ことだ。そのためには、インタビューの現場では〈取材〉をする。つまり〈材〉を〈取〉ることに最善を尽くす。それを肝に銘じるべきだ。
具体的には、次のような点をおさえておきたい。
[ポイント1]頭をフル回転させ場をコントロールする
ふだん〈会話〉をするとき頭をフル回転させることはあまりないだろう。肩ひじ張らず“自然体”で話すのがふつうだ(相手が自分の会社の社長とか、莫大な金額の商談をしているのでなければ)。
しかし、インタビューの場はちがう。極論すればそこは“戦場”。しっかりと“武装”して臨む必要がある。インタビューはやり直しがきかない。“討ち死に”しないためには、事前の準備を怠らない。本番では頭をフル回転させ、相手の話をただ「聞く」のではなく「聴く」。そんな心構えが重要となる。
限られた時間で最大限パフォーマンスを発揮するのがプロのインタビュアーとしての本分。このふるまいが〈会話〉とはまったく異なるのはあきらかだろう。
[ポイント2]可能なかぎり相手に話をしてもらう
頭をフル回転させながらインタビュアーはなにに注力すべきか? 可能なかぎり相手に話をしてもらうことだ。事前に用意した“シナリオ”にもとづいて質問をし、話の流れをしっかりと見極める。脱線すれば本線に誘導。ベラベラと余計な話をしている暇はない。
極端な場合、自分がほとんど口を開かなくてもインタビューが成立することさえある。たとえば、書籍制作のインタビューでは、あらかじめ質問の内容を著者と共有していれば、相手が話すのをただ「聴く」。質問は最後にまとめて行なう。そんなケースもある。
これもあきらかに〈会話〉とは異なるふるまいだ。そして、やはり「話し上手」よりは「口下手」のほうが、自分が口を開く度合いが少ないぶん、成功しやすい。この点もおわかりいただけるだろう。
[ポイント3]相手からの信頼はあくまで仕事ぶりで勝ちとる
「そんなことを言っても、相手から信頼されるためには、たくさん話をしないと……」。そんなふうに思うかもしれない。
考えかたは十人十色だが、「価値のあるコンテンツ」をつくることが、なによりも信頼につながるのではないだろうか。
そもそもインタビュイーは、現場で会話が盛りあがることなど重要視していない。もっと“ビジネス”としてのメリット(記事が自分の宣伝になるなど)を求めているはずだ。
となると、インタビューの現場で重きを置くのは〈会話〉ではない。良いコンテンツをつくるための〈取材〉。そのための〈インタビュー〉ということになる。
冒頭で述べたように、ここではいちライターとしての考えを述べてきた。しかし、これまで〈インタビュー〉と〈会話〉を区別することで成果を挙げてきたと自負している。ぜひあなたの“インタビュー術”を見直すきっかけにしてほしい。